とにもかくにも、育った環境も価値観もまるで正反対の私たちが一緒に暮らしたって、うまくいかないのは当然のことだった。

 もっとも、それ以前の問題でもあるのだけれど。

「言わなくてもわかるだろ普通。ほんと気ぃ利かねえなおまえ」

 どうしてそんな言われ方しなきゃいけないんだろう。

「……ごめん」

 何が「ごめん」なのか自分でもわからなかった。もはや単なる口癖と言ってもいいくらい乾いた謝罪の言葉。とりあえず謝っておけば、慶の機嫌が多少ましになることを知っている。

 予想通り満足したらしい慶は「べつにいいけど」とため息混じりに言った。

「準備できてんの? あと浴衣着るだけ?」

「髪もセットするけど、すぐ終わるよ」

「まだ時間かかるだろ? ちょっとパチンコ行ってくる」

「え? パチンコ行くの?」

「待ってても暇だし」

「そんなに時間かからないよ?」

「おまえのそれ信用できねえ。つーか女にとっては短時間でも男にとっては長時間なんだよ」

 慶は短くなった煙草を消してさっさと着替えを始めた。

「花火の前に屋台行こうって言ったの慶だよね?」
「だからちょっとだっつってんだろ。おまえしつこい」

 いつもこうだ。ああ言えばこう言われる。そのたびに、風船の空気が少しずつ抜けていくみたいに、体の中が空っぽになっていくような感覚に呑まれる。

 慶の「ちょっと」は一体何時間のことを差すんだろう。少なくとも三十分とか一時間とかのレベルではない。慶が偉そうに言った台詞をそっくりそのまま返してやりたい。慶にとっては短時間でも私にとっては長時間だ。

 ていうか、なんで私が我儘みたいになってるんだろう。花火大会に行く約束なんかしなければよかった。

 私は花火に興味があるわけじゃないからどっちでもよかったけれど、断ればまた慶の機嫌が悪くなると思ったから承諾してしまった。まさか行く前から喧嘩になるとは思わなかった。

 それに、行き先は本当にパチンコ屋なのだろうか。

「なるべく早く帰って来るから」

 一番信用できない台詞を繰り返した慶は、すこぶる機嫌がよさそうに家を出て行った。