慶はいつも長期連休に入るとすぐに地元に帰るけれど、今回は少しだけ予定をずらして豊平川の花火大会に行くことになっていた。空は本格的な夏の到来を感じさせる、雲一つない晴天だった。

 休日は二人ともお昼頃まで寝ていることが多い。先に目が覚めた私は、隣ですやすやと眠っている慶を起こさないよう布団から出て準備を始めた。

 一時間かけてシャワーとメイクを終えても、そこからさらに一時間待っても、慶はすっかり寝入っているようでまったく起きる気配がない。

「慶、そろそろ起きて」
「あー……今何時?」
「もうすぐ二時だよ」
「なんだよ……まだ時間あるじゃん」

 打ち上げ開始は十九時四十分。確かにまだまだ時間はある。だけど屋台は昼間から出ているから、夕方頃には向かおうと約束していたはずだ。

 二度寝しようとする慶を揺さぶると、眉をひそめてだるそうに体を起こした。テーブルから煙草をとって火をつける。

「おまえいつから起きてたの?」
「十二時前くらいだけど」
「はあ? 化粧にそんな時間かかったの?」

 同棲してから知ったことだけど、慶は寝起きがすこぶる悪い。

「違うよ。起きるの待ってたの」
「何してたの?」
「何って……テレビ観てたんだよ」
「ずっと?」

 こういうの好きじゃない。言いたいことがあるのは明らかなのに遠回しに言われるのは嫌だ。

 それに気を遣って起こさなかっただけなのに、どうしてイライラされなきゃいけないのかわからない。

「何が言いたいの?」

「先に起きてそんな時間あったんなら、せめて掃除くらいしてくれてもいいんじゃない?」

「何その言い方」

 私もさすがにイライラしてくる。二時間も待っていたのに、そんな言い方ってない。

 それに、花火大会に行こうと言ったのも浴衣を着てほしいと言ったのも夕方には出かけようと言ったのも全部慶だ。

「おまえさあ、同棲してから家のこと何もしねえじゃん」

 慶が私の名前を呼ばなくなったのはいつからだっただろう。

 おまえって言われるのも好きじゃない。見下されているような気持ちになるから嫌だ。実際に見下しているのだろうけれど。