ちょうどその頃に慎ちゃんと街中で偶然会い、彼氏ができたことを報告した。慎ちゃんに彼女とのことを訊いても、続いていること以外は何も教えてくれず、どこか苦しそうに口をつぐんで顔を曇らせるだけだった。

 慶からロミジュリよろしくな感じであの人の話を聞いたときは、まさか慎ちゃんの彼女と同一人物だなんて夢にも思わなかった。知ったのは流産したあと、別れを告げようとしたあの日。

 慶のスマホに表示された〈美莉愛〉の文字を見て、嘘だろと思った。今どきそれほど珍しい名前じゃないかもしれない。

 だけど決してよくある名前ではない。少なくとも、この広くない田舎でそんなキラキラネームはきっと二人といない。

 もちろん名前だけでは確証にならない。だから、写真とかないの?と訊いた。

 すると慶は、待ってましたとばかりにノリノリで私に見せてきたのだ。そして同一人物だと確信したとき、一つの可能性が芽生えた。

 彼女の──美莉愛さんの話をしていたときに慎ちゃんが苦しそうだったのは、もしかすると彼女が今でも元彼と深く繋がっていることを勘付いているんじゃないだろうか、と。

 だったら、私が慶と美莉愛さんを離してやればいい。

 ──おれ結婚願望強くて。早く結婚して子供つくって、普通に幸せに暮らしたい。

 成功すれば、慎ちゃんはなんの障壁もなく結婚できる。慎ちゃんの夢を叶えるためには、慶が邪魔だった。

 その瞬間から私は、二つの目的のためだけに慶のそばに居続けることを決意した。

 だって、約束したんだ。私が慎ちゃんを幸せにしてあげる、って。

 私が結婚して子供を産んであげることはできないけれど、他の誰かとでもいいから、夢を叶えてほしかった。慎ちゃんに、誰よりも幸せになってほしかった。

 だけど、慶と美莉愛さんを切らせたかった理由は少し変わってしまっていたのだろう。

 ──彼氏とのことで悩んでるらしくて、愚痴とか相談とか聞いてやってるだけだよ。

 慎ちゃんと付き合えているのに、慎ちゃんの隣にいられるのに、よりによって元彼と頻繁に連絡を取って、たまに会って、相談だけならまだしも愚痴をこぼしている。

 そんな美莉愛さんが赦せなかった。だから彼女からも、何か一つでも奪ってやりたかった。

 これが、あまりにもくだらない私の過去と目的だった。