慎ちゃんの両親が離婚したのは、私のお母さんのせいだった。

 不倫相手との関係を絶たせても、相手には夫の子供がいるという事実に耐えきれず離婚したらしい。慎ちゃんのお父さんには真実を告げないまま。

 お互いが知りうることを話し終えた私たちは、まるで世界の終わりみたいな暗闇の中で佇んでいた。

 そこまでして私を産んでくれてありがとう、なんて嘘でも思えなかった。私の存在のせいで、大好きな人の家庭をぶち壊したのだから。

 ただぼんやりと雪を眺めていたとき、慎ちゃんのアウターのポケットから着信音が聞こえた。出ようとしない慎ちゃんを見て、私は直感してしまった。

『彼女……いるんだね』

 慎ちゃんは目を見張って、ばつが悪そうに顔を背けた。

『あー……うん。つい最近。よくわかったな』
『どんな人?』
『いいよ、そんな話』
『でも……知りたいの。お願い』

 慎ちゃんと同い年で、名前は美莉愛さん。

 お父さん同士が友人で、仕事上の繋がりもあり、いずれ結婚することになるかもしれないと言った。おめでたい話なのに、慎ちゃんはずっと苦しそうに語っていた。

 写真を見せてほしいと言うと、慎ちゃんは断固拒否した。ちゃんと諦めるためだと訴えて、渋々見せてもらった。

『綺麗な人だね』
『……うん』
『ねえ、慎ちゃん。約束して』
『……ん?』
『絶対に、幸せになるって』

 慎ちゃんとは、もう会えない。

 きょうだいだからといって、会ってはいけない理由とは直結しないだろう。

 だけど、会ってしまえば私は欲求を抑えられない。

 今の私にできることは、ただ慎ちゃんの幸せを願うことだけだった。

『……うん。陽芽も、絶対に幸せになれよ』

 他の人と、幸せになる。そう約束した。だからお互いの連絡先は削除し、一年後に慶と出会い付き合った。

 猛アプローチをしてくれる慶を見ているうちに、この人となら、こんなに私を好きになってくれた慶となら、きっと幸せになれると思った。