〇せわの家の前の道。(夜)乃亜視点。

 乃亜(あー塾だるかった〜。数学の西田、雑談長すぎ。飼ってる猫の話なんて誰も興味ないっての)

 塾の帰り、たまたま通りかかったのはせわの家の前だった。

 理人「それじゃ、また明日」
 せわ「うん。また明日。おやすみなさい」

 二人が玄関先で話しているのを見て、鞄を落とす乃亜。

 乃亜(嘘……なんで二人が……?)



 〇学校・教室(朝)

 せわが登校すると、教室の中が騒がしかった。ガラリと引き戸を引くと、乃亜を中心とした女子生徒たちが集まって来て……。

 女子生徒1「あ、来た来た」
 女子生徒2「ちょっとせわ!」
 女子生徒たち「「高杉と付き合ってるってマジ!?」」
 せわ「へっ?」

 突然の問いに、あんぐりと口を開く。

 せわ「付き合ってないけど……急にどうして?」
 女子生徒「乃亜が昨日塾の帰りに、家の玄関で二人が立ってるの見たんだって!」

 せわ(あのときの……)

 昨日理人が家に来ていたことを思い出し、納得する。

 乃亜「二人、一緒に住んでるの?」
 せわ「ううん。家が隣同士で……昔から色々お世話になってて……」
 乃亜「え! じゃあ幼馴染ってこと?」
 せわ「うん。そんな感じ」

 乃亜と友人たちは顔を見合わせる。何を言われるかと身構えていると、乃亜たちは目を輝かせた。

 乃亜・女子生徒たち「「羨ましい〜〜!」」
 乃亜「そうなら早く言ってよ水臭いなぁ!」
 女子生徒「幼馴染なら、融通効かせて一緒に遊んだりできんじゃん!」

 せわ(やっぱりこうなるか……)

 予想通りの反応に顔をしかめる。理人に近づくために女の子たちが利用してくるのが目に見えていたから、ずっと幼馴染ということを隠してきたのに。

 せわ「それは……どうかな。理人ってあんまり誰かと遊んでるイメージないし……」
 女子生徒「理人!? 名前で呼んでるの?」
 せわ「あっ……」

 いつも人前では苗字で読んでいたのに、つい口を滑らせて名前で呼んでしまう。咄嗟に口を押さえたが、時すでに遅し。

 乃亜「何? 二人って結構仲良い感じなの?」
 せわ「う、うん。付き合いが長いから」
 乃亜「いいなぁ! じゃー色々知ってること教えてよね!」

 すると、理人が教室に入って来た。

 乃亜「高杉おはよ!」
 理人「おはよ」
 乃亜「せわちゃんと幼馴染だったなんて知らなかったよ。ねー、うちも高杉のこと理人って呼んでいい?」
 理人「別にいいけど」
 乃亜「やった〜! 理人♡」

 無表情の理人。袖を摘んで甘えるような態度の乃亜を見て、せわの胸がずきんと痛む。

 せわ(許可、しちゃうんだ……)

 理人は自分の席に着いて、イヤホンで音楽を聴きながら本を読み始めた。乃亜がこちらに振り向く。

 乃亜「これからうちらに色々協力してね!」
 せわ「わ、えっ、えっと……」
 女子生徒「よろしく! せわ。頼りにしてるから」
 せわ「…………うん」

 思わず、うんと返してしまった。