〇学校・教室(昼休み)

 せわは麗子と美波といつものようにテーブルを囲って昼ご飯。三人ともはちまきをつけたままで、体操着姿。

 麗子「あはははっ! 何その鼻のやつ! ださっ! せわだっさ!」
 美波「笑ったら可哀想だよ麗子ちゃん……ふっ……ふふ」

 せわ(言いながら笑ってるし)

 せわの両鼻にティッシュが詰めてあるのを見て、麗子は涙目になりながら爆笑する。

 せわ「笑い事じゃないからね。超痛かったんだから。鼻潰れるかと思ったもん(鼻声)」

 眉をひそめながら、お弁当箱を空けると……。メッセージカードが添えてあった。

『球技大会お疲れ。アイスが待ってるよ』

 せわ(理人お母さまぁ……!)

 目を潤ませて感涙にむせぶ。
 理人は毎朝、自分の分とせわの分のお弁当を作ってくれる。優しい心遣いに、痛みも疲れも吹っ飛びそうだ。
 メッセージカードを持っていると、麗子と美波がそれを覗き込んだ。

 麗子「せわのお母さんやっさしー」
 美波「あれ……? この字どっかで見たことあるような……」

 ぎくり。その筆跡は、明らかに理人のものだ。美波は理人と日直が同じで、日誌の字が凄く綺麗だと褒めていたのを思い出す。

 せわはメッセージカードを袋に戻して誤魔化した。

 せわ「えっと……気のせいじゃない? はは……」
 麗子「どした? めっちゃ目泳いでるけど」
 せわ「全然! なんでもない!」
 麗子「そう?」

 すると、教室の扉がガラリと開いて、ハイテンションの乃亜が入ってきて、彼女の友人たちが集まる。

 女子生徒1「乃亜大丈夫!?」
 女子生徒2「怪我は?」
 乃亜「へーきへーき。大したことないから。――それより……」

 乃亜は両頬に手を添えてうっとりと言う。

 乃亜「高杉、ギャップやばすぎ!」
 女子生徒「え、何何! 詳しく!」

 理人の名前が出て、つい気になって耳を傾けるせわ。

 乃亜は椅子を引いて、席に着く。その周りを女子生徒四名が囲う。

 乃亜「実はね……」



 〇(乃亜の回想)乃亜を横抱きにしたまま、保健室に入り、横長のソファに座らせる。

 乃亜「……ありがと、高杉」
 理人「どういたしまして」
 乃亜「保健室の先生……いないみたい……?」
 理人「そうだね」
 乃亜「…………」

 乃亜(なんか気まずい……)

 理人は無表情のまま、机の上の医療箱を持ってきて、乃亜の前に跪いた。足をそっと手に取る理人に、乃亜がかあっと顔を赤くする。

 乃亜「ちょっ、高杉、何……い、いたたたっ!」
 理人「じっとしてろ。湿布貼るから」
 乃亜「え……ありがとう」

 湿布を巻いた後、剥がれないように包帯で補強していく。手馴れた様子に乃亜が感心する。

 理人「はい。終わり。しばらくはあまり動かさない方がいい」
 乃亜「えー! もうすぐ部活の練習試合あるんだけど!」
 理人「悪くなったらもっと嫌だろ?」
 乃亜「まぁ……うん。いつ治る?」
 理人「二週間ってとこだな。早く治すなら――タンパク質がいい」
 乃亜「タンパク質?」
 理人「長芋とか肉とか大豆とか。免疫力が上がるからな。バランスよく食べて、しっかり寝る。あと、痛みが続くようなら早めに整形外科行った方がいい」
 乃亜「…………」

 ぱちぱちと目をしばたかせる乃亜に、理人がどうかした? と尋ねる。乃亜はふっと笑った。

 乃亜「高杉ってちょっと過保護? いつも無愛想だし、もっと冷たくて怖い人かと思ってたのに、全然違うね」
 理人「悪い。……つい癖で」
 乃亜「癖? 妹でもいるの?」
 理人「妹っていうか……。まぁそんな感じ」

 乃亜(やばいこれ、ギャップ萌えだ。本気で好きになりそう……)

 〇(回想終わり)



 乃亜「ってな感じ!」
 女子生徒たち「「きゃ〜!!」」
 乃亜「これガチ恋かも……。今も超ドキドキしてるもん! どうしよ、告っちゃおうかな……」
 女子生徒1「乃亜可愛いしいけるかも! てか、それだけ優しくしてくれるってことは脈アリなんじゃない?」
 女子生徒「「やばいやばい! 全然ある!」」

 盛り上がっているのを聞きながら、せわは肩を落とした。

 麗子「どした? せわ暗いけど」

 せわ(私……たぶん、嫉妬してる。理人のこと、取られたくない。これって――)