せわモノローグ(――という訳で、生活力がなさすぎる私は、理人に世話されているのだ)

 理人はこちらにつかつかと歩いてきて、今日助けたおばあちゃんからもらった野菜の袋を取り上げる。そして、せわの額をつんと指で押した。

 せわ「あいたっ」
 理人「お前は人がいいにも程がある。知らない人にはついて行くなっていつも言ってるだろ。危ない人だったらどうするんだ」
 せわ「でも、今日は腰が曲がったおばあちゃんだったよ。超安全だよ!」
 理人「おばあちゃんの皮を被ったボクサーとか格闘家かもしれないだろ」
 せわ「うんそれはないと思う」

 せわは、過保護すぎる理人に半眼を向ける。

 せわモノローグ(コワくてモテる高杉くんだけと。実は――)

 理人「早く着替えて来い。手も洗い忘れるなよ。弁当箱はシンクに出しといて。それから、制服はさっき俺のついでにアイロンかけといたから。あ、体操服洗濯すんならちゃんとネット入れて――」
 せわ「そんなに一気に言われたら分かんないよ理人。とりあえず、手を洗ってアイス食べます!」
 理人「食事の後にしろ」

 せわモノローグ(過保護で世話好き。お母さんみたいな人だ)

 手を洗ったあと、キッチンで料理している理人を隣で観察する。
 慣れた手つきで野菜を切る理人。

 せわ「手際がいいね。私も何か手伝うことある?」
 理人「なら、そこ玉ねぎの皮剥いて」
 せわ「はーい」

 玉ねぎの皮を剥きながら、せわは首を傾げる。

 せわ(玉ねぎって、どこまで剥けばいいんだろう……)

 せわ「あれ……? あれ……?」

 混乱しながら皮を次々剥いていく。理人が、どんどん小さくなっていく玉ねぎに気づきぎょっとする。

 理人「ストップ。もう十分だから」

 ふた周りくらい小さくなった玉ねぎを取り上げ、「随分小さくなったな」と呟く。それから彼は、剥いた玉ねぎを手早く切っていった。せわは隣に並んでその姿を見ていた。

 せわ「背、伸びたね」
 理人「成長期だから。お前は縮んだんじゃない?」
 せわ「なっ……そんなことないもん」

 ぷすと頬を膨らませて拗ねると、理人は小さく笑った。

 理人は基本的に無愛想だけれど、せわの前では笑顔を見せる。

 せわモノローグ(無表情でコワい理人は、確かにかっこいい)
 せわモノローグ(でも理人は――笑うともっと素敵)
 せわモノローグ(それを知ってるのはたぶん、私だけ……)



 〇せわの家・ダイニングルーム(夕食)

 ダイニングルームでせわと理人はテーブルを囲う。

 せわ・理人「いただきま〜す!」「いただきます」

 二人で手を合わせて挨拶し、パンと一緒にミネストローネを食べる。せわがスプーンでひと口口に運ぶ。

 せわ「美味しい〜! さすがは理人シェフ」
 理人「どうも」

 おもむろに、せわはチェストの上に飾られた母親の写真を見る。それに理人も気づく。

 理人「もうすぐ命日だったな」
 せわ「うん。もう九年だよ。長かったような、あっという間だったような」
 理人「困ったことがあれば、いつでも頼れよ」

 母親は亡くなり、父親も仕事ばかりだけれど、理人がいてくれるおかげで寂しくない。

 せわ「理人は……優しいね。今も昔も」

 せわはにっこり笑う。

 せわ「いつもありがとう。理人がいてくれるおかげで私、毎日すっごく幸せ。理人って本当、――お母さんみたい」
 理人「…………」

 理人は眉間に皺を寄せて、不本意そうに沈黙する。

 せわ(あれ、なんかすごい怒ってる……?)

 せわは怒りを感じ取り、慌てて謝る。

 せわ「ご、ごめん。嫌だった……?」
 理人「別に」

 別に、と言う割に不機嫌そうな顔をしている。理人はスプーンを置き、頬杖を着きながら聞いてきた。

 理人「お前ってさ、俺のことどう思ってんの?」
 せわ「もちろん大好きだよ」

 即答すると、理人はわずかに戸惑ったような顔を浮かべた。そのあと、少し寂しそうに呟く。

 理人「その好きはたぶん、俺のとは違うんだろうな」
 せわ「え……?」

 彼の言葉の意味が分からなくて、せわはこてんと首を傾げた。

 せわ「それにしても理人は、世話好きだよね。面倒見いいから、将来はいいお母さんになれるよ」
 理人「だから性別が違うんだよな。それと――」

 理人は頬杖を着いて、まっすぐこちらを見据えた。鋭い眼差しに射抜かれてどきっとする。

「俺は世話が好きなんじゃなくて――せわが好きだから」
「はは、両想いだね? 照れる」

 へらへらと笑うせわ。

 理人(これ、全然分かってないやつ……)

 理人は小さくため息を漏らした。