〇翌日。学校の教室にて。

 乃亜「ほんっっっとにごめん!」

 頭を深深と下げて謝ってくる乃亜。

 せわ「ううん、平気! だから顔上げて?」

 そう促しても、彼女は頭を下げたまま。

 乃亜「あんな最低なことしといて、合わせる顔ないよ。うち……八つ当たりしたんだ。せわに」
 せわ「八つ当たり?」

 顔を上げて、悲しそうな顔を浮かべる彼女。

 乃亜「実はうち、あの日理人に告ったんだよね」
 せわ「えええっ!? 告白!?」
 乃亜「ちょ、声でかい!」

 みんなの視線が集まっているのを感じて、せわはきょろきょろ辺りを見渡す。

 乃亜は椅子に座って続けた。

 乃亜「ばっさり振られたけどね。ほんとショック。それで余裕なくて……せわに当たった。ごめん。嫌いになったよね」

 せわは首を横に振る。

 せわ「ううん。ちょっとだけ傷ついたけど、でもそれよりも素直に謝ってくれたことが嬉しいよ。ありがとう、乃亜ちゃん」

 乃亜の手は小刻みに震えていて、余程勇気を出してくれたのだと分かる。せわはふっと小さく笑った。

 乃亜「せわって、本当優しいよね」
 せわ「……そんなことないよ」
 乃亜「せわはさ、好きな人とかいるの?」
 せわ「……いるよ」

 せわが即答すると、乃亜は目を見開く。せわは苦笑いを浮かべて、「片想いだけどね」と加えた。

 乃亜「理人も好きな人、いるんだって」
 せわ「え……」
 乃亜「せわちゃんが好きなのって、理人?」
 せわ「それは……」

 まごつくせわ。

 乃亜「あー、やっぱ答えなくていいよ。でも、応援してる。頑張って」
 せわ「う、うん。……ありがとう」

 せわ(理人……好きな人、いたんだ。知らなかった)



 〇街道を理人とせわが歩いている(下校中)

 理人「仲直りしたんだ? 中島さんと」
 せわ「うん! 気まずいまんまだったらどうしよって心配してたから、安心したよ〜」
 理人「お前って本当人がいいよな。俺なら絶対許さないけど」
 せわ「はは、理人は根に持つタイプだからね」
 理人「お前に戦隊フィギュアの足折られたの、まだ忘れてないけど」
 せわ(何年前の話!?)

 昔、理人の部屋に飾ってあったフィギュアを落とし、足を踏んだことを思い出す。せわは苦虫を噛み潰したような顔をする。

 せわ「ひっ……弁償します!」
 理人「別にいいよ。冗談だし」

 二人でしばらく道を歩く。理人はさりげなく車道側を歩いてるくれていて、せわの荷物まで持ってくれている。紳士だ。

 せわ(理人の好きな人ってどんな人なんだろう……。でも、理人はこういうの根掘り葉掘り聞いたら嫌がるよね)

 でも、聞かずにはいられない。

 せわ「り、りりりりりり理人さん!」
 理人「……何?」
 せわ「理人さんには、その……好きな女性のタイプとかは、あるのでしょうか」

 立ち止まる理人。彼はこちらの顔を覗き込みながら言った。

 理人「なんでそんなこと知りたいの?」
 せわ(ごもっともな質問……!)

 理人のことが好きだから、とは口が裂けても言えるはずがなく。

 理人は少し思案し、せわの肩をぐいっと引き寄せ、ショーウィンドウに姿を映した。ショーウィンドウに反射して映るせわを指さしながら、彼は言う。

 理人「こんな感じの子」
 せわ「!?!?」

 せわの戸惑った顔を見て満足気に笑い、そのまま何もなかったように歩き出す理人。せわは大混乱だった。