〇家庭科室。調理実習でハンバーグを作っている。

 麗子「それで? 実際どうなのよ。高杉くんと」
 美波「ずっと近くにいて、何も起こらないなんてありえないよね〜男女だし」
 せわ「何回も言ってるけど、本当にただの幼馴染だよ」

 遠くのテーブルで、玉ねぎを切っている理人を乃亜と女子生徒たちが囲んでいる。慣れた手つきで玉ねぎをみじん切りにしていく理人。

 乃亜「理人慣れてるんだね。意外!」
 女子生徒「ギャップ萌えだ〜」
 理人「見てないで肉の処理やってくれる? やり方分からないなら教えるから」
 乃亜「教えてほしい! てかお付き合いを前提に結婚してほしい!」
 理人「逆だな」

 彼女たちの様子を遠目に見て、麗子が言う。

 麗子「乃亜ちゃん完全に狙ってんじゃんあれ。いいのせわ? うかうかしてると取られちゃうよ」
 せわ「元々わたしのものじゃないし。……でも」

 せわも理人と乃亜の様子を眺める。理人は相変わらずぶっきらぼうで冷めた顔をしているが、乃亜は完全に乙女な顔をしていて。
 せわは悲しそうな顔を浮かべた。

 せわ「理人が誰かと付き合うのは……嫌、だな」
 美波「ふふ、青春だねぇ。嫉妬するってことは、好きってことでしょ?」
 せわ「……そう、なのかなぁ」

 せわモノローグ(ずっと隣にいるのが当たり前で、異性として意識したことがなかったけど……) 
 せわモノローグ(理人もいつか、好きな人と付き合ったりするんだよね)

 せわは、理人の隣に恋人がいる様子を想像する。胸に鈍い痛みがして、胸を押えながらぶんぶんと首を横に振った。

 するとそのとき、遠くのテーブルの乃亜が大きな声で言った。

 乃亜「せわちゃん! 今週の土曜一緒にたこパやろ! 理人も一緒にせわちゃんの家で!」
 せわ「い、いいけど、理人は……?」
 理人「……俺は遠慮する。女子だけで楽しんで」
 乃亜「何言ってんの。理人は強制参加だよ。来てくれるまでうちら粘るよ?」
 理人「……分かった」

 迷惑そうな顔を浮かべる理人。

 せわ(うわぁ……露骨に嫌そうな顔してる)

 すると、気を利かせた麗子と美波が乃亜に言った。

 麗子「そのたこパ、私たちも参加していい?」
 乃亜「いいよ〜! 人数多い方が盛り上がるし!」

 せわは申し訳なさそうな顔をして、麗子に聞く。

 せわ「来てくれるの……?」
 麗子「せわ一人で放っておけないでしょ」
 せわ「麗子サマぁ……」

 せわは両手を祈るように組んで、感激の涙を流すのだった。

 せわ(なんだな大変なことになっちゃったなぁ……)

 ぼーっとしているせわの肩を、美波が叩く。

 美波「ちょっとせわちゃん! ハンバーグ焦げてる焦げてる!」
 せわ「わっほんとだ! てか焦げ臭っ!」

 フライパンから煙が出ていて、ハンバーグは真っ黒な炭になっていた。