「瑠胡」
少しでも目を離せば溶けてしまいそうな世界のなかで、先輩が笑っている。
その瞬間、トンッ、と小さく胸を叩かれたような気がした。胸の内側から、気づいて、というように何度も。
──ああ、と。
そこでようやく気がついた。
否、ずっとこの気持ちの正体を探っているふりをして、本当は初めから気づいていたのだ。
それでも気づかないふりをしていたのは、傷つくことが怖いから。想いを認めてしまったら、もう後戻りはできないとわかっていたからだ。
まっすぐに彼を見つめると、柔らかい笑顔が返ってくる。その顔を見ていると、色々な感情が混ざって泣きたくなってしまう。けれどその涙は、きっとなによりもあたたかい。
────わたし、琥尋先輩のことが好きなんだ。
自覚をしてしまうと、フィルターがかかったように、一瞬で世界が鮮やかになる。
トントン、と、内側から叩く音が強くなり、この感情が言葉として出てしまいそうになった。ぐっと口に力を入れて、それをとどめる。



