四月のきみが笑うから。


「なあ、瑠胡」


 振り向くとそこには、ひどく優しげな表情をした先輩がいた。

 いくつもの、名前を知らない感情が混ざり合ったような顔をする先輩は、まっすぐにわたしの目を見つめて告げた。


「俺のこと、信じろとは言わないけど────信じていいよ」


 そのときふと、あたりが柔らかい光に包まれて、導かれるように視線が空に吸い寄せられる。

 太陽と逆の空に、アッシュピンクのラインがかかる。青色と混ざり合うようにグラデーションになるそれはまるでピンク色の橋のようだった。


 言葉には表せない絶景に息を呑む。すべてを溶かし込むような淡い色をした空は、どこまでも終わりなく広がっていた。


「ビーナスベルト」

「え?」


 ぽつりと呟いた先輩に視線を移すと、「ビーナスベルトって言うんだ。すげえ綺麗だろ」と誇らしげに笑っていた。


 その顔を見た途端に、胸の奥がキュッと締めつけられる。けれどそれは苦しくなるようなものではなくて、ささやかで甘いときめきをもたらす、そんなもの。


「ビーナスベルトは空気が澄んだ日にしか見られないから、春や夏にはあまり見られないんだと」

「え、でも今」

「だから俺たちはツイてるんだ。ほら、しっかり目に焼き付けろ。次いつ見れるか分からないからな」


 そう言われて、視線を空に戻す。

 海と空の間がぼやけて、神秘的な光に包まれている。