四月のきみが笑うから。


「ここから少し歩く。行こう」


 鞄を掛け直したタイミングで手を取られる。

 骨張った手の感覚に、思わず心臓が跳ねた。


 触れ合った左手が妙に熱くて、神経がそればっかりに集中してしまうのに、先輩はなんでもないように平然としていた。

 それどころか、「綺麗な空だな」なんて景色を楽しむ余裕まであるみたいだ。


 手を引かれながら黙って歩く。

 ドッ、ドッという胸の鼓動が、指先を伝わって先輩に届いていないか心配だった。

 汗が噴き出すように、全身が熱い。


 手を繋いでいる。

 この行為自体に意味なんてきっとない。
 意識しているのはわたしだけで、先輩にとっては当たり前のことなのかもしれない。

 異性とのスキンシップに慣れていないわたしにとっては、ハードルが高すぎるくらいだけれど。


(でもきっと先輩は)


 こんなことを考えてしまう自分が嫌だ。

 打ち消すように首を振り、前を向く。