いつものように電車に乗り、空を眺めながら揺られること数分。
ふとこちらを見た先輩が小さく首を傾げた。
「今日、これから時間ある?」
「え……ありますけど、どうしてですか」
「ちょっと一緒に行きたいところがあって」
ニッ、と笑う先輩は、秘密基地に向かう子供のような、そんな無邪気な顔をしていた。
唇の隙間からちらりと覗く八重歯が可愛らしいな、なんて。頭の片隅をよぎる言葉。
そんな思想を脳内から追いやり、問い返した。
「どこですか?」
「それはまだ内緒」
唇の前で指を立て、目を細める先輩。艶っぽい仕草に、心臓がトクンと音を立てる。
「ついてきてくれる?」
「はい。行きたいです」
素直にうなずくと、嬉しそうに笑った先輩は「じゃあ次の駅で降りるから」と告げた。
そんな場所で降りたことはないので、やや緊張気味に降車し、電車を見送る。
あっという間に走っていってしまった電車。
思っていたよりもあっさりしたものだった。
周りを見渡すと、緑が多い。
風の音がやけに大きく感じられる。
きっと都会に住む人が理想とする田舎の形がそこにあった。
それくらい、のどかで、落ち着いていて、こんな場所が通学までの停車駅にあったのだと驚いてしまうほど。