「なにが重いんだ?」


 なにより耳が欲していた音色に、息が止まる。

 ついに幻聴まできこえるようになってしまったのか。そんな説はどうにか否定してほしくて、この目で存在を確かめたくて、ゆっくりと振り返る。


「よっ、元気?」


 変わらない笑顔がそこにあった。

 数日間会わなかっただけで、ずいぶん懐かしいと感じてしまう。
 

「先輩……!」

「そんな嬉しそうにされると照れるわ」


 照れ笑いを浮かべながら後頭部を掻く先輩は、「会えなくてごめんな」と小さくなった。

 慌てて首を振ると、安堵したように緩められた頰が、わずかに桃色に染まる。


「もうすぐ電車くるよな。一緒に行こう」

「はい……!」


 前に視線を移した瞬間、景色にパッと色がついた。

 桜も、空も、道も、風ですら、すべてが鮮やかに彩られて世界が一気に華やいだ。


 わたしの世界が色づくためには、やはり彼が必要らしいのだ。


「桜散ったな」

「ですね……少し寂しいです」


 手を伸ばせば簡単に届いてしまう、心音が聞こえてしまいそうな距離。


 二人並んで歩く時間は、もっとを求めてしまうほどに、和やかなものだった。


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