「理由なんてないよ。ただ、やりたくない。それだけ」
「そんなの許されるわけないじゃない。大人になったらもっと大変なのよ? 頭を下げたり、常に笑顔で対応したり。子どものうちは勉強するだけだって言ってるじゃない。なんでそんなに簡単なこともできないの」
ああ。まずい。
そう思った時には、もう溢れていた。どろっとした、鉛のように重くて、黒い感情が。
「もうわたしはこれが限界なの! いちいち口出ししないで! ほっといて! わたしはお母さんが思っているほど有能じゃないし、いい子でもなんでもないから!!」
「瑠胡! 待ちなさい!」
バタンと荒々しくドアを閉めて、家を飛び出す。背中からわたしを呼ぶ声が聞こえたけれど、振り返らなかった。
振り返ってしまったら、きっとお母さんの顔を見てしまう。
そしたら、偽物の罪悪感が渦巻き、わたしを取り込んでしまう気がした。



