正直、彼女がとなりにいない生活は慣れない。
学校で過ごすどの瞬間も、「今ここにいてくれたら」と感じてしまう。
どう頑張っても叶うはずのない願いを抱えながら、愛想笑いを貼り付けて生活をしているのだ。こんなの、楽しいわけがない。
『離れ離れになっても会えなくなるわけじゃないんだから。定期的に連絡してね、あたしもするから』
卒業式の日、彼女はそう言って笑っていた。
いつもわたしが見てきた笑顔で、桜に溶けるようにそう告げたのだ。
目の前にある当たり前は、失くしてから気づいても遅い。いくら戻りたいと願ったところで、どうにもならないのだ。
電話をかけようとしていた手が止まる。
(もし、冷たくされたら? 向こうでのようすを楽しく語られたら?)
そしたらきっとわたしは耐えられないだろう。そう思うと、怖くて指が震える。
そのままスマホの電源を切って、重い息を吐き出した。
空を見上げると、白い月がぼんやりと浮かんでいた。光は薄くて、雲に霞んだ丸い月が、静かに道を照らしている。
(きれい、なんだよね。きっと)
もっと心に余裕があれば、いくらでも美しさを感じることができただろう。
だけど今は、月が出ているという事実としてしか認識することができない。
光るものを包みぼかしてしまうような霞みさえ美しいと思える日はくるのだろうか。
そんなふうに風情を感じ、月を見て笑える日が来るのだろうか。
ぼんやりとそんなことを考えながら過ごす夜は、いくつもの孤独を溶かすように、ただ静かに広がっていた。



