四月のきみが笑うから。


 ああ、また(・・)夢だ、と。

 そう唐突に理解したのは、目の前が青で染まっていたから。キラキラと水面に反射する光が、まっすぐにわたしに届いていた。


 さわ、と木の葉が揺れる。ふと何かの気配を感じて振り返ると、柔らかい表情でたたずむ少年がいた。


「あなたは」

『瑠胡ちゃん、はじめまして……ではないか。昨日ぶりだね』

「どうしてわたしの名前を……?」


 目を丸くすると、『昨日言ってくれたじゃない』と微笑む男の子。

 男性というより、本当に【男の子】という形容が合う少年だった。


 この夢は、前回の夢と繋がっているのだと理解する。やけにリアルで、到底夢だとは思えないけれど、それでもわたしを囲む空気がなんとなく、いつもの世界とは違って、どこか異質なものだった。


「あなたは、だれ?」


 おずおずと問うと、何度か目を瞬かせた彼は、口の端をあげてにこりと笑う。


『ハクトだよ』


 口の中で溶かすようにその名前を呟いてみるけれど、まったく聞き覚えのない名前だった。

 そもそも、ハクトと名乗るこの子が現実の世界に存在しているのかも分からない。


「ハクトくんは、いったい何者なの?」

『それはそのときが来たらわかるよ』


 そんな曖昧な返答をされてしまう。


『僕は瑠胡ちゃんが幸せになる手助けをしたい』

「どうして?」

『瑠胡ちゃんが幸せになれば、きっとアイツも幸せになれるから。そしたら僕も、幸せになれる』

「アイツって、だれ?」


 その問いにハクトくんは答えることなく、静かに首を横に振った。

 誤魔化すようなその仕草は、少年がするにはひどく大人びて見えた。