将来の夢などない。就きたい職業なんて決まっていない。

 それなのに、たいした理由もなく県内の中でも割と偏差値の高い進学校を受験してしまった。


 強いて言うなら、優柔不断で流されやすい性格と、小さな見栄のせい。

 わたしは昔からいつもこうだった。


 誰よりも心配性だから、誰よりも努力したと思う。

 押し潰されそうな不安と、消えてしまいそうな希望を背負って、涙を流しながら勉強した日々。


 その甲斐あって、自分の番号が載っていたときは、これ以上ないほどの喜びと達成感、そして自分にもできるんだという自信を手に入れた……はずだった。


 けれど、今は違う。泣きたくなるほど深い後悔に日々苛まれている。


 もう頑張れない。この苦しみから逃げ出して楽になるには死ぬしかない。だけど死ぬのはもっと苦しい。

 それが分かっているから、死に物狂いで頑張るしかない。ボロボロになって生きるしかない。どっちに進んでも苦しい。

 わたしに逃げ場なんて、どこにもない。


 ぐるぐるとまわる悪循環に囚われる。

 終わらない地獄を永遠と彷徨っているようだった。



『子供なんて楽でいいじゃない。勉強するだけでいいんだから。大人になったらもっと大変だよ?』



 弱音を吐くと、母は必ずこう言う。外で溜め込んだものを家で吐き出せば、またかといったようにため息を吐かれてしまうせいで、いつしか自分の本音を吐露することができなくなった。

 居場所だった家すら居心地が悪くて、時々唐突な吐き気に襲われる。


 大人のほうが大変。
 仕事も、生活も、人間関係も。きっと、恋愛だってそうだろう。


 そんなことは分かっている。
 "子供だから"という理由で許されていたことが、大人になったら許されなくなること。"子供だから"という理由で助けてもらっていたことが、大人になったらまったく見向きもされなくなること。


 子供が思っている以上に大人の社会は甘くなくて、誰もが学生時代に戻りたくなるような苦痛の日々が待っていること。