四月のきみが笑うから。

 わたしだけが、浮いている。明らかにわたしだけが違う。異物のような存在。

 いつしかそんな状態になって、ここにいるべきではないと気づいたときには、すでに何もかも遅かった。


「だけど独りになりたくないんです。もう、どうすればいいのか分からない……」


 甘えたことを言うなと、自業自得だと罵られてしまうかもしれない。

 だけど、こんな思いを抱えていたら、きっと身体が腐ってしまう。心が死んでしまう。


「……ひとりは、こわい?」


 控えめな先輩の問いに、うなずく。
 生きるときも死ぬときも結局はひとりなのに、それでもひとりはこわい。

 馬鹿馬鹿しくて情けなくても、ひとりでいいなんて絶対に言えない。


「情けないですよね。でも、こわいんです」

「別に情けなくないよ。世の中のやつらの大概はそう思って生きてるよ」


 「じゃないと孤独なんて言葉存在しないはずだろ」と先輩は天を仰いだ。

 そのときちょうど踏切の音が鳴り出す。


「だから、一人になれとは言わない。だけど、苦しいところにわざわざいる必要もないよ。見えてないだけで、案外居場所って近くにあるものだからさ」

「居場所……?」

「出逢いって、俺たちが思ってる以上に唐突に来るものだから。けどそれは偶然じゃなくて、いろんな奇跡が積み重なったただの結果。初めから定まってた運命ってやつ。俺はそう信じてる」


 白い歯を見せて笑う先輩。

 言葉の真意を、このときのわたしはまだ理解することができなかった。


 それでも、重かった身体が楽になっていくのを感じる。

 すうっと何かが抜けていくように、ネガティブな気持ちも言葉も、すべてが解消されていった。


(やっぱり、すごいひと)


 どうしてこんなに心が楽になるのだろう。

 彼は何か不思議な力を持っているのかもしれない。


「話すだけで楽になれることだってある。ただそれだけなんだよ、瑠胡」


 わたしの心を見透かしたように告げ、立ち上がった先輩。すらりと伸びた背が、夕陽を受けて影をつくる。くるりと振り返り、切長の目を細めた先輩は。


「すっきりしたら笑え。いつもの笑顔がいちばん似合ってる」


と、どこか照れくさそうに、笑った。


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