四月のきみが笑うから。

「何がつまんなかったんだ? 授業? 休み時間? ぜんぶ? それともよく分かんねえ何か?」

「よく分かんねえ何かです」

「あ、汚い言葉遣いが移った。瑠胡がフリョーになっちまう」


 おどけた口調の先輩に、自然と笑みがこぼれる。いつもは意識して口角を上げるのに、今は完全に無意識の領域だった。


「いつか、夜露死苦! とか言ってきたらどうしよ」

「なんで先輩を超えてるんですか。もはや自分で学習しにいってるし」


 ツッコミを入れると、お腹を抱えて笑う先輩。あまりに楽しそうに笑うものだから、つられて笑ってしまう。

 流れるように、片眉を上げた先輩が口を開く。


「不良少女の瑠胡サン、何かお困りで?」

「……人間関係ってほんとうまくいかないもんだな」

「おっ、意外と才能あるよ瑠胡」


 目を丸くする先輩にくすりと笑う。案外さらっと真似できたことに自分でも驚いた。
 普段こんな話し方はしないので、どこか違和感があるけれど。


「で、人間関係なあ。確かに俺も苦手だわ」

「……あ」


 無意識のうちに悩みを口にしていて、慌てて口を覆ったけれど、もう遅い。

 先輩はにやりと悪戯っぽく笑っていた。


「誰かになんかされたのか。嫌なこと言われたのか」

「……逆、です。わたしが傷つけたんです」


 一瞬息を呑んだ先輩は、それから小さく息を吐いて「なるほどな」と呟く。


「どうせあれだろ? 友達の悪口に同調しちまったとか、そういうことだろ?」

「え、なんで」

「瑠胡は絶対に自分から人を傷つけたりしない。じゃないとそんなつらそうな顔してねえだろ」


 額を指で弾かれる。
 なんでもお見通しなのだ、この人は。


「でも、大丈夫です」