「お母さん、あれから色々と考えたの。そしたら、やりすぎだったことに気がついたわ。たしかに瑠胡の人生は瑠胡のものだもの。お母さんが決めるものじゃないのよね」

「お母さん……」

「これからは好きに生きてちょうだい。さっき教えてくれた夢が叶うように、お父さんもお母さんも全力でサポートするから」


 お母さんの言葉に、お父さんが立ち上がってわたしの方へと近寄ってくる。

 久しぶりに対面したお父さんの顔は、なんだか見慣れなくて妙な感覚がした。


「……ずいぶん明るい顔をしているな」

「え?」

「お父さんもお母さんも、お前の笑顔が好きなんだよ。将来の瑠胡がずっと笑っていられるように、幸せになれるようにって詰め込みすぎてしまったんだ。辿る道は本人が決めるべきなのに。悪かった」


 ときどき、夜遅くまで喧嘩や言い合いが続いていたことをわたしは知っている。

 会話の中に『瑠胡』という単語が出ていたことも。


「ありがとう、お父さんお母さん。これからも、よろしくね」


 両親が微笑む。
 久しぶりに見た、とても優しい表情で。


 もう無理だと諦めていたことも、気持ちを伝えるだけで案外壁はすぐに壊れる。

 分かりあうことができる。


 すべてを抑え込んで卑屈になっているだけでは見えない世界が山ほどあるのだと。

 抱え込むことが解決につながるわけではないのだと。



 この春、出会った彼がわたしに教えてくれた。