四月のきみが笑うから。


 生ぬるい風が、頬をひどく優しく撫でてゆく。

 やはりわたしでは、先輩のとなりには並べないらしい。

 突きつけられた事実に、胸が張り裂けてしまいそうなほど痛くなる。
 こんなに想っていても、届かない気持ちはある。だからこそ世の恋人たちは、想いが重なり合った奇跡を、大切にしていくのだろう。

 ペコリと頭を下げる。

 用が済んだら、すぐに立ち去ろうと思った。


「……わ、分かりました。色々でしゃばって、すみませ────」

「俺、瑠胡に嘘ついた」


 落とされた言葉に顔を上げると、そこにはひどく優しい顔があって、思わず息が止まりそうになる。

 今にも泣きそうな顔をしている彼は、ふっ、とその瞳に夜のような光を宿した。


(懐かしい。出逢った時の色をしてる)


 魅力的すぎて眩しくなるような色。

 わたしは初めからこの瞳に囚われていたのかもしれないと、今になってぼんやりと思う。


 静かに目を伏せ、深呼吸した先輩は、それからゆっくりと目を開ける。

 その瞳には、迷いも憂いも含まれていなかった。


 硝子玉のような瞳のなかにわたしがいて、まるで夜に溶け込んでいるかのようだった。



 唇が、動く。

 この瞬間が来ることを、心のどこかで期待していた。


 きっと、出逢った時から、ずっと。