生ぬるい風が、頬をひどく優しく撫でてゆく。
やはりわたしでは、先輩のとなりには並べないらしい。
突きつけられた事実に、胸が張り裂けてしまいそうなほど痛くなる。
こんなに想っていても、届かない気持ちはある。だからこそ世の恋人たちは、想いが重なり合った奇跡を、大切にしていくのだろう。
ペコリと頭を下げる。
用が済んだら、すぐに立ち去ろうと思った。
「……わ、分かりました。色々でしゃばって、すみませ────」
「俺、瑠胡に嘘ついた」
落とされた言葉に顔を上げると、そこにはひどく優しい顔があって、思わず息が止まりそうになる。
今にも泣きそうな顔をしている彼は、ふっ、とその瞳に夜のような光を宿した。
(懐かしい。出逢った時の色をしてる)
魅力的すぎて眩しくなるような色。
わたしは初めからこの瞳に囚われていたのかもしれないと、今になってぼんやりと思う。
静かに目を伏せ、深呼吸した先輩は、それからゆっくりと目を開ける。
その瞳には、迷いも憂いも含まれていなかった。
硝子玉のような瞳のなかにわたしがいて、まるで夜に溶け込んでいるかのようだった。
唇が、動く。
この瞬間が来ることを、心のどこかで期待していた。
きっと、出逢った時から、ずっと。



