四月のきみが笑うから。


「だから駅で瑠胡を見たとき、咄嗟に身体が動いてた。今度は、動けたことにすごく安堵して、それと同時に思ったんだ。俺は選択肢を奪ってしまったんじゃないかって」


 先輩の手が、わたしの手を握る。

 小刻みに揺れる指で、包み込むように握られる。


「死ぬのって勇気いるだろ? 簡単にはできないよ。よほど悩んで、苦しんで、葛藤した先の結果だと俺は思うから。だけど俺は、瑠胡に生きてほしかった。これは俺のただのわがままかもしれないけど、それでも俺は、瑠胡に死んでほしくなかった」

「わたしも……助けてくれて、嬉しかったです。本当に感謝しています」

「生きたいって思わせるとか、そんなふうに豪語したけど、俺はちゃんとできてる?」


 強くうなずくと、安堵したように息を吐いた先輩は、「よかった」と呟いた。


「先輩はすごい人です。はじめから、わたしの中ではずっと」


 握った手に力を込めると、ふるふると首を横に振られる。


「俺はそんなにすごいやつじゃないよ。なにせ今、逃げようとしてたところだったんだから。ていうか、実際逃げたし……な」

「えっ」

「何でもできるアイツが羨ましかった。いつも比較されて、いちばんを奪われていくのがつらかった。だから病気に勝てたら、そしたら……珀都に勝てると思った」

 何回か呼吸を入れながら、ゆっくりゆっくり話す先輩。静まり返った世界の中で、先輩の心の声だけが、わたしの耳へと届く。

「ただそれだけのクソみたいな理由で、俺は医者を目指してた。アイツが勝てなかった病気に勝ちたい、それだけなんだ。こんな最低なやつが人の命救いたいだなんて、笑えるだろ」

「でも、先輩」

「そのつもりで勉強してきたのに、そんな半端な気持ちでこの先続けていけるわけない。将来の自分が笑えているのか分からないのに、重圧背負いながら勉強して、俺は何やってんだろうって自分の存在理由が分かんなくなった」


 それで、ここに。
 すべてを吐き出してしまうために、先輩はこの場所にいたんだ。

 ふ、と息を吐いて少し目を閉じた後、先輩はまた口を開く。