「どうして……って、きいてもいいですか」
踏み込んだ質問だから、慎重にもなる。
おずおずと訊ねると、「ああ」と少しうなずいた先輩は、海の先を見つめた。
「……病気だったんだ。小児がん」
あまりにも重い響きに、頭を鈍器で殴られたような衝撃があった。
だって、あの珀都くんが?
いつも夢の中で微笑んでいる彼が?
信じられなかった。
言葉にも顔にも身体にも、病気を潜めた素振りなんていっさい見せなかったから。
彼はただ、琥尋先輩という兄のことが大好きな弟。それだけに見えていたというのに。
「昔から何でもできるやつだった。勉強も運動も出来て、大人びてるのに子供っぽいところもあって、とにかく完璧なやつだった。周りの人たちからもすげー褒められて可愛がられてさ。逆に俺は出来損ないで、子供ながらに俺、疎外感半端なくて」
「……うん」
「だけどそれを認めるしかないくらい、めちゃくちゃ優しくてさ。少しは嫌なやつだったら、それなりに嫌いになれたんだろうけど。本当に、非の打ちどころのないような兄貴だった」
「……うん」
「弱さとか、絶対に見せなくて。だから本当に病気なのかな、俺を騙すための嘘なんじゃないかなって、ずっとそう思ってた」
相槌を打つたび、反応をうかがうように視線がわたしに向く。
話すことを怯えているような目だった。



