けれど、リアクションをする暇もないまま、『お願い、瑠胡ちゃん』と透き通る瞳がわたしを見つめた。
『瑠胡ちゃんにしか、できない。瑠胡ちゃんにしか頼めない。アイツは昔から不器用で、素直になれないやつだけど……だけど本心は違う。大切なものだからこそ、守り方が分からないんだよ。傷つけたくないから、自分から離そうとするやつなんだ』
「……うん」
『これが僕にできる最後のことだから。素直になれないアイツを、誰よりも優しいアイツを、今度は瑠胡ちゃんが救ってやってほしい。お願いばかりでごめ……』
「もちろん、そのつもりだよ。ウザがられても、嫌がられても、伝えにいくって決めたから。ハクトくんに頼まれたからじゃない。わたしの意志で、助けに行くの」
ぎゅっと手を握ると、同じ強さで握り返される。
その手はわずかに震えていた。
わたしを変えてくれた人。
何も言わないまま、離れてしまうなんて。
そんなこと絶対にできないと、さっき自分の口から出てくる言葉を聞きながら、思った。
たとえ終わりが来たとしても、わたしは彼とのはじまりを見てみたい。怖がって、恐れて、はじまりから逃げたくない。
「わたしには、先輩が必要みたい。だから、いってくるね」
にっ、と笑うと、泣きそうな顔をしたハクトくんは、もう一度うなずいた。
キラリと目に光るものは、いちいち説明する必要などないだろう。
『いってらっしゃい、瑠胡ちゃん』
「いってきます」
視界がぼやけていき、急激に意識が引っ張り上げられていく。
海底から浮き上がった泡が、水面でパンッと弾けてしまうように、わたしの意識もまた、はじけた。



