四月のきみが笑うから。


 けれど、リアクションをする暇もないまま、『お願い、瑠胡ちゃん』と透き通る瞳がわたしを見つめた。


『瑠胡ちゃんにしか、できない。瑠胡ちゃんにしか頼めない。アイツは昔から不器用で、素直になれないやつだけど……だけど本心は違う。大切なものだからこそ、守り方が分からないんだよ。傷つけたくないから、自分から離そうとするやつなんだ』

「……うん」

『これが僕にできる最後のことだから。素直になれないアイツを、誰よりも優しいアイツを、今度は瑠胡ちゃんが救ってやってほしい。お願いばかりでごめ……』

「もちろん、そのつもりだよ。ウザがられても、嫌がられても、伝えにいくって決めたから。ハクトくんに頼まれたからじゃない。わたしの意志で、助けに行くの」


 ぎゅっと手を握ると、同じ強さで握り返される。

 その手はわずかに震えていた。


 わたしを変えてくれた人。

 何も言わないまま、離れてしまうなんて。


 そんなこと絶対にできないと、さっき自分の口から出てくる言葉を聞きながら、思った。

 たとえ終わりが来たとしても、わたしは彼とのはじまりを見てみたい。怖がって、恐れて、はじまりから逃げたくない。


「わたしには、先輩が必要みたい。だから、いってくるね」


 にっ、と笑うと、泣きそうな顔をしたハクトくんは、もう一度うなずいた。

 キラリと目に光るものは、いちいち説明する必要などないだろう。


『いってらっしゃい、瑠胡ちゃん』

「いってきます」


 視界がぼやけていき、急激に意識が引っ張り上げられていく。

 海底から浮き上がった泡が、水面でパンッと弾けてしまうように、わたしの意識もまた、はじけた。