四月のきみが笑うから。


 あたたかい夢の中にいた。

 ふわふわと漂う意識は、まるでクラゲにでもなったかのようで、不思議な気分に陥る。


 眩い光がからだを包み込むように広がり、空と海を取り込んで揺れていた。


『瑠胡ちゃん……!』


 遠くのほうから、誰かが駆けてくる。

 出会った時と同じくらい距離があるけれど、すぐにハクトくんだと分かった。わたしも小走りで近寄ると、あっという間に互いの顔が見えるほどの距離になる。


『今日頑張ったんだね。瑠胡ちゃんの姿、見てたよ』

「えっ……ハクトくん、いたの?」


 その問いに、彼は微笑むだけだった。

 さらりと吹く風が頬を撫でる。
 瞳を揺らした彼は、薄い唇を開いた。


『瑠胡ちゃんは間違いなく成長しているよ。出会ったときよりも、ずっとね』

「そう、なのかな」

『うん。僕が保証するよ』


 胸を張るハクトくんは、また微笑む。

 こんなにあたたかい表情をされたら、勇気を出して行動してよかったと心から思う。


 ひどく大人びて見えるハクトくんは、一歩わたしに近づいた。ふわ、と鼻腔をついた香りは、深い森のようなもの。

 兄弟だと匂いまで似るのだろうか、と微笑ましく思ったときだった。


『だけど瑠胡ちゃん、まだやるべきことが残っているよ』


 諭すような口調に、まどろみかけていた意識が戻る。

 彼の言葉の意図が分からなくて、「やるべきこと?」と問いかけると、強くうなずいた彼はわたしの手をとった。


 子供の体温なのかと驚いてしまうほどに、ひどく冷たい手だった。