四月のきみが笑うから。


 去ってゆく背中を見届けた瞬間、身体が一気に解放されたような感覚になる。

 ドッドッと脈を打つのが速くなってゆく。


「わたし……ちゃんと、琴亜ちゃんを守れた、かな」

十分(じゅうぶん)だよ! 巻き込んで、本当に……」

「謝らないで。琴亜ちゃんは何も悪くないよ」


 申し訳なさからか、安堵からか。

 泣きそうな顔をする琴亜ちゃんに首を振る。友達として当然のことをしたまでだと、やっとできたのだと、そう伝えたかった。


「瑠胡ちゃ────」


 次の瞬間、視界がぐらりと歪む。

 身体が傾いている感覚だけは伝わってくるのに、手足はいうことを聞いてくれなかった。


 スローモーションのように、時間がゆっくりと流れていく。

 心臓の音だけが、耳のそばでズクンズクンと響いていた。


(わたしは何か変われたでしょうか。少しでも成長することができていますか────?)


 誰に問いかけるでもなく、ふとそう思った。

 もしこれを問いかける相手がいるとするならば、それは、神様というかたちのない崇高な存在だろうか。



「瑠胡────!」



 朦朧とする意識のなかで、ふわりと鼻をつく懐かしい香り。


 わたしはこのにおいを、よく知っている。



 目を閉じると一筋伝ったそれを、あたたかい何かが、静かに拭ったような気がした。