去ってゆく背中を見届けた瞬間、身体が一気に解放されたような感覚になる。
ドッドッと脈を打つのが速くなってゆく。
「わたし……ちゃんと、琴亜ちゃんを守れた、かな」
「十分だよ! 巻き込んで、本当に……」
「謝らないで。琴亜ちゃんは何も悪くないよ」
申し訳なさからか、安堵からか。
泣きそうな顔をする琴亜ちゃんに首を振る。友達として当然のことをしたまでだと、やっとできたのだと、そう伝えたかった。
「瑠胡ちゃ────」
次の瞬間、視界がぐらりと歪む。
身体が傾いている感覚だけは伝わってくるのに、手足はいうことを聞いてくれなかった。
スローモーションのように、時間がゆっくりと流れていく。
心臓の音だけが、耳のそばでズクンズクンと響いていた。
(わたしは何か変われたでしょうか。少しでも成長することができていますか────?)
誰に問いかけるでもなく、ふとそう思った。
もしこれを問いかける相手がいるとするならば、それは、神様というかたちのない崇高な存在だろうか。
「瑠胡────!」
朦朧とする意識のなかで、ふわりと鼻をつく懐かしい香り。
わたしはこのにおいを、よく知っている。
目を閉じると一筋伝ったそれを、あたたかい何かが、静かに拭ったような気がした。



