四月のきみが笑うから。


 しばらく目をつむっていた緋夏が、座り込む琴亜ちゃんに近づく。

 警戒することはないと、なんとなくわかっていた。くるみ色の瞳が、柔らかいものへと変わっていることに気がついたから。

 入学式の日、わたしに向けられたものと同じ、まっすぐな瞳だった。


 たとえ間違った道を選択してしまったとしても、目の奥に宿る光は、きっといつだって取り戻すことができる。


「……ごめん、なさい」


 差し出された手をじっと見つめていた琴亜ちゃんは、目に涙を浮かべたままその手をとった。

 立ち上がった琴亜ちゃんは、そのまま緋夏を抱きしめる。身体を強張らせていた緋夏は、静かに身体を預けた。


「嫉妬して……ひどいことして、ごめんなさい」

「ううん。大丈夫」


 ゆるりと頰を緩める琴亜ちゃんに抱きしめられたままの緋夏は、瞳を流してわたしを見つめた。そして、薄い唇を静かに動かす。


「瑠胡にも、ひどいことして、ごめん。ハブいてごめん」


 首を振ると、緋夏は言葉を続ける。


「……許してもらえるとは思わないけど、友達としてそばにいたい。瑠胡と一緒にいて、ウチもすごく楽しかった」


 思えばこうして真正面からぶつかり、和解をし、新たな関係を築こうとしたのはいつぶりだろう。

 今までなら諦め、少しでも困難な人間関係は避けてきたというのに。


 人と人との繋がり、信じることの大切さを、彼と出会って知ったからだろうか。


「わたしもだよ、緋夏」


 こくりと頷くと、安堵したように目元を緩めた緋夏は、うつむいて涙をこぼした。


 琴亜から離れた緋夏に、取り巻き────ではなく、友達が駆け寄る。

 「ありがとう」と。それだけを呟いた緋夏は、彼女たちに連れられて去っていった。