「緋夏のことは好き。だけど、こんなことする緋夏のことは嫌い」
「いつも可愛くて明るくて、一緒にいて楽しいけど、人の悪口言う人とは一緒にいたくない」
「緋夏がいい人だってこと、あたし知ってるから。だから、こんなことしてないでいつもの緋夏に戻ってよ」
その時の感情で、思わぬことを口走ったり、非行に走ってしまうことは誰にだってある。
けれど、必ず正してくれる人が必要なのだ。
口を結んだまま鋭い視線を向ける緋夏に、一歩近づく。
入学式の日、わたしに話しかけてくれたこと。それは本当に嬉しかったのだ。
彼女が持つものは、こんなマイナスなことだけではない。
それは緋夏という人物の一面なだけであって、優しい部分も、人間らしい部分も、ちゃんと持っているはずなのだから。
「緋夏。わたし、緋夏が話しかけてきてくれて、本当に嬉しかったんだ。緊張とか不安とか、そういうの。全部吹き飛んでいったから」
わたしは彼女と向き合うことから逃げていた。あの日の感謝も、それから一緒に過ごした日々の思いも、何一つ伝えられていなかった。
「だからちゃんと友達になりたい。一緒にいることがつらくならないような関係を築いていきたい。ダメ、かな」
友達になってください、なんて、小学生じゃあるまいし。
心の中で思ったけれど、それがいちばんの近道かもしれないと思った。
大人になればなるほど、表と裏の顔をつくるのが上手になって────否、上手にならざるを得なくなって、どこからが友情なのか、境界線が分からなくなってしまう。
純粋な友達と呼べる人が少なくなってしまう。
だけど、偽ることのない素を。そんなものを出せる瞬間が少しでもあるのなら、きっとそれは友情だと呼べるだろう。
そんなふうに、思った。



