「みんなも緋夏のいいなりになるのはやめなよ。本当はこんなことしたくないんでしょう?」
「……は?」
顔をあげると、緋夏が眉を寄せる。
それでも、わたしは続けた。
「一緒にいたとき、必死にご機嫌取りしてたのはわたしだけじゃなかったはず。わたしがハブかれたとき、自分じゃなくてよかった、って安心した顔してた人、たくさんいたよ」
ぐるりとあたりを見回すと、誰もが決まって目を逸らす。
顔を隠すようにカメラを構える子に近づき、勢いよくスマホを取り上げると、今にも泣きそうな顔が現れた。
「こんなこと、したくないんでしょ? 分かってるよ」
スマホ画面をのぞくと、「やめて!!」と叫んだその子は、ひったくるようにスマホを奪い返した。
「やっぱり……動画撮影されてないね」
「……ち、違うよ。これは、間違って」
「だったらそんな顔しないでしょう」
罪悪感に押し潰されそうな顔、してる。
焦ったようなコールの仕方も、どこか違和感があった。学校でのヒエラルキーは、時に上位の人たちも苦しめる。
「もうやめようよ。高校生にもなってこんなこと。一人で歯向かうのは怖くても、みんなで叫べば怖くないよ」
ぐるりと視線を動かして、一人ひとりの顔を見つめる。まだ目を逸らす人が何人もいる中で、バチッと視線がかち合った人がいた。
「ひとりにはならないよ。わたしが、いる」
四月のわたしのように、ひとりになることに怯えているのだとしたら。
あなたは一人ではないと、そう伝えてあげることが必要だと思った。
支えてくれる人が一人でもいるだけで、なんだってできるような気がしてくるのだから。
わたしはそれを、大切な人から教えてもらった。



