四月のきみが笑うから。

(綺麗な目)


 ここまで綺麗な目を持った人は初めて見たかもしれない。目の大きさや形云々ではなく、彼は瞳そのものが綺麗だ。まるで夜が溶けているような、薄紫と紺青が混ざり合った色。そんな特徴的な色をしているのに浮くことなく似合ってしまう美貌には、凛々しさとわずかな甘さが同居していた。


「どうしたんでしょう……わたしも、よく分からないんです」


 ぽろりと言葉がこぼれる。ペットボトルのキャップに視線を落として、緊張を紛らわすために指の腹でキャップをなぞった。


「何がつらいか分からないんです。ただ無性に、死にたくなっただけです」


 いわば、あの行為は衝動的なもの。少しは冷静になった今なら分かる。あの瞬間の自分は相当狂っていた。

 こんな話をしていったい何になるのだろう。内容が重たすぎて彼に呆れられてしまう。いやそもそも、さっきの行動でドン引きされているのは確かだから、もう取り繕う必要もないのかもしれない。

 ぐるぐると一人で考え込んでいると、少しだけトーンの下がった声が静かに響いた。



「まあ、普通に生きてりゃ一回くらいはあるわな。消えたいって思うことくらい」



 予想外の反応に驚いて振り返ると、同じようにこちらを見た彼はふっと目を細めた。その表情が今まで見たなによりも儚くて、生まれて初めて心が揺れるのを自覚する。


 死にたい。消えたい。


 そんなことを思って毎日を生きているのはわたしだけなのだと思っていた。もしいたとしてもそれはきっと少数で、周りにいる大多数はそんな思いすることなく生きているのだと。


「あなたも……思ったことが、あるんですか」