◯回想(凪の幼少期)

物心ついた時、母は自分の隣にはいなかった。
元々、体が弱く、兄の(つむぐ)を産んだときも体調がかなり悪化したそう。だが、『家族が多い方が笑顔の数も増える』と、一人っ子で寂しい思いをした母きっての願いもあり、二人目を産むことにしたそうだ。

そして誕生したのが俺だ。

父は昔からやんちゃをして育ったいわゆる不良で、それは大人になり、俺と兄の父親になった今でも変わらない。とにかくファンキーでクレイジーな奴だ。

父と母の馴れ初めは、ふらりと街にやってきた母に父が一目惚れ。お嬢様育ちだった母からすれば父というクレイジーな奴は物珍しく、すぐに母もすぐに惹かれていったそう。まぁ、とにかく色々とあったらしい。最終的に、『響子にたくさんの景色を見せてくれてありがとう』と母の両親から感謝されたそうだから、今となっては良き思い出なのだろう。

容姿は母から、喧嘩の強さは父から受け継いでいると言っても過言ではない。それは兄も同様に。


(回想終了)


◯家(朝)


父「凪。最近学校はどうだ?」

ジャージにエプロン姿の凪の父はフライ返しを片手に凪に問う。

凪「別に普通」
父「普通って何?凪の普通が俺にはわからん!」
凪「(めんどくさ)」

兄「めんどくさそうな顔しないよ、凪」

兄は凪の頬を手で挟み、わざと笑った顔を作る。

凪「(ダブルでめんどくさ)」

父と兄は凪に超がつくほどの過保護だ。

凪父(見た目は若い。家族大好き。ファンキーでクレイジーだが、仕事できる為、響子の父が経営していた不動産屋で働いている。)

凪兄(大学一年。髪色はアッシュグレー。優しい口調で女を誑かす天然タラシ。凪のことが大好き。)


最近の学校は…と、思い出すのは戸上の顔だった。

(俺を助けようとしたり、弁当を分けてくれたり)

父の影響で喧嘩が強く、今のところ敵なしの凪は友達もいない。中学の時は【孤高の廣瀬】とあだ名がついたときもあった。周りは避けるわけではないが特段関わることもなく、凪自身苦痛ではなかったが、やはり友達の一人や二人は欲しかった。その代わり女子だけは望んでいなくても寄ってくる。

凪が女子に免疫がないのは男だけの生活が長かったから。あとは兄に全ての免疫力を吸われた(と思っている)


父「でも顔が優しくなった気がするんだよなぁ。もしかして女でもできたか?」
凪「は?うっせぇよ」
兄「こら。うるさいよって言いなさい」
凪「(やっぱりめんどくせぇ)」


◯学校(屋上・昼休み)

うらら「わあ!美味しそうだね」
凪「普通だろ」
うらら「普通ってもんじゃないよ。朝からオムライスだよ?手間かかるんだから」
凪「ふうん」

凪父は料理が得意。

マリが部活友達とお昼を食べる為、うららと凪で昼食中。
適当な距離で横並び。
女子への免疫力がないと打ち明けてから、うららは凪の様子を伺うようになった。気を遣わせていると感じる。


凪「戸上は料理すんの?」
うらら「たまにね。お母さんが夜勤で忙しい時は妹の分と私の分の晩御飯作ったり!」
凪「父親は?」

しまったと思い、謝ろうとすれば「あ、全然気にしないで」と、離婚したことを教えてくれた。お互いに片親で、兄弟がいることに親近感が沸く凪。


凪「俺んとこは母さんが病気で死んだから、このオムライスは親父が作ってる」
うらら「え!お父さん、すっごい料理上手なんだね!習おうかな〜」

ファンキーでクレイジーな父を想像する凪。

凪「いや、やめといた方がいい」


凪は少し笑う。