「ふむ。魔力のコントロールか」
「うん。中級魔法を使う分には問題ないんだけど、初級魔法を使うと、この前みたいに凄い事になっちゃうの。何かコントロールが上手くなる方法はないかな?」

 長老とお婆ちゃんに今の悩みを打ち明けると、二人が顔を見合わせる。
 やっぱりお父さんやお母さんの言う通り、エルフは魔力のコントロールが当たり前に出来るから、教えるっていう事が出来ないのかな。
 暫くすると、長老さんがかなり困った表情を浮かべながら、口を開く。

「うーん。方法が無い訳ではないのじゃ」
「本当!? お願い、教えてっ! このままだと私、ずっと魔法が使えないよっ!」
「いや、そもそもソフィアが焦り過ぎというのもあるのじゃがな。時間が経つにつれて、自然と魔力のコントロールが出来るようになる可能性もある」
「そんなのいつになるか分からないでしょ! あと五年しかないんだから」
「五年もあれば十分な気もするが……わかった。その方法というのが、人間の街にある魔法学校へ入学する事じゃ」
「人間……!? 魔法学校!?」

 えっ!? この世界って、エルフだけじゃなかったんだ! 人間も居るんだ。
 というか、人間も魔法が使えるの!? しかも、学校まであるの!? 何それズルい! 私も、そっちできっちり学びたかったよ!

「人間は、我々エルフと比べて、遥かに魔法の技術が低い。そのため、魔力のコントロールが出来ない者が殆どで、それを何とかしようとワシの友人が学校を作ったのじゃ」
「長老さんのお友達の学校なの?」
「うむ。と言っても、もう既に他界しており、今はその息子か孫……が学長をしているはずじゃ」
「長老さん! 私、そこへ行きたい! 魔法のコントロールが出来るように教えてもらう!」
「……そうじゃな。その学校は短期間で基礎を詰め込む方針で、入学から三か月で卒業だと聞いておる。ワシから話せば入学は可能じゃろう。後は、イーリスたちが許可するかどうかじゃな」
「パパとママは私が説得するよ! 長老さん、お婆ちゃん! ありがとう!」

 帰り際に、お父さんやお母さんが反対するようなら、お婆ちゃんが説得に加勢してくれると言ってくれた。
 よし! 何としても両親を説得するんだ!
 そう意気込んで帰宅したんだけど……

「ダメだ。ソフィアはまだ十歳なんだぞ? それなのに人間の街へ一人で行くなんて危険過ぎる」
「そうよ。ソフィアちゃんは可愛いから、悪い人間に狙われるかもしれないわ。それに、人間の中にはエルフを敵みたいに見てくる者だって居るんだから」

 即座に反対されてしまった。

「でも、パパもママも私がずっと魔法を使えなくても良いの!?」
「人間の学校へ行かなくても、そのうち魔力がコントロール出来るようになるよ」
「いつ? 学校へ行けば三か月で使えるようになるんだよ!? たった三か月で」
「だが、ソフィアは三か月も一人で暮らすんだぞ!? その間、パパやママに殆ど会えないんだぞ!? そんなの耐えられるのか!? パパは耐えられないぞっ! 三か月もソフィアに会えないなんてっ!」

 お父さんが耐えられないのっ!?
 もう私は十歳なんだよね? そろそろ子離れしようよ!
 暫く話が平行線を辿っていると、突然玄関の扉が開かれた。

「話は聞かせてもらったよ! 二人共、この私を見てごらん! ソフィアの治癒魔法で元気になったんだ! こんなに才能のある子を、埋もれさせて良いのかい!?」
「お、お義母さん!? 腰が……えぇぇぇっ!?」
「お爺さんの治癒魔法では、曲がった腰は治らなかった。だけど、ソフィアには凄い力が秘められているんだ。三か月くらい我慢しなさい」
「うぐぅっ! ですが、正直言って三か月は長いですよ。せめて三日くらいなら、まだ何とか……」

 いや三日って、日本の小学校での林間学校とか修学旅行よりも短いんだけど。
 そんな事を考えていると、お婆ちゃんの後ろから長老も姿を現した。

「まぁ待ちなさい。ソフィアにも話したが、そこの学長はワシの事を知っておる。毎年定期的に顔を見せに行っておるから、エルフに対する偏見なども無いところだ」
「お父さん!? だけど、ソフィアちゃんはまだ小さくて……」
「そう思っていても、子供はいつの間にか大きくなっているものだ。それに、今回許可しなかった事で、ソフィアがワシの目が届かない学校へこっそり行かれる方が心配ではないか?」
「た、確かに。ソフィアちゃんならやりかねない……」

 あの、お母さん。
 流石に、家出同然の状態で知らない学校へ突撃したりはしないってば……たぶん。
 ひとまず、お婆ちゃんと長老のおかげで、人間の街にある魔法学校へ入学する事になった。