「ねー、お父さん。魔力量のコントロールって、どうやるの?」
「うーん。どうやるのと言われても、自然に出来る事だからな」
「そんなぁ」

 私がやらかした超発光事件の後、魔力コントロールが出来るようになるまで、光魔法の練習は禁止となった。
 幸い、他の魔法の中級魔法については禁止されていないけど。
 多分だけど、中級魔法は発動させるのに必要な魔力が初級魔法よりも多くて、私の体内の魔力量と丁度良い感じになっているんだと思う。
 だから、中級魔法は本に書かれているのと同じような効力しか現れなくて、初級魔法は必要以上の魔力に干渉しちゃって、大変な事になるんだと思う。
 ……この考えがハズれていて、中級魔法まで禁止されたら困るので言わないけど。

「イーリス。魔力量のコントロール方法って教えられる?」
「えぇー! そんなの何となくで出来ちゃうもの。わからないわよー」
「だよなー……うーん。後で長老に聞いてみようか」

 お父さんとお母さんもお手上げといった感じで、後で長老の所へ行くと言うので、一人で先に行く事に。
 長老に限った事じゃなくて、エルフっていう種族全体がのんびりみたいだから、お父さんやお母さんがいつ行くかもわからないからね。
 という訳で、一人で長老の家にやって来たんだけど……あれ? まだ寝てるのかな?
 長老さんがいつもの椅子に座っていなくて、代わりに奥さん……私のお婆ちゃんが対応してくれた。

「ごめんなさいねぇ。あの人、まだ目が痛いって言っているの。もう三日も経ったのに」
「治癒魔法で治せば……あ、もしかして目が見えてないって事ですか?」
「そうなのよ」
「えっと、お見舞いだけでも良いですか?」
「えぇ、勿論よ。あの人、ソフィアちゃんが大好きだもの。きっと喜ぶわ」

 普段お婆ちゃんが姿をあまり見せないのは腰が痛いからなのかな?
 腰を曲げたまま、ゆっくりと歩くお婆ちゃんに案内されて寝室へ行くと、長老が布で目を覆って横になっていた。

「あなた。ソフィアちゃんが来てくれましたよ」
「おぉ! よく来てくれたな」

 そう言って、長老が身体を起こす。
 やっぱり目が痛むだけで、身体は元気みたい。

「長老さん。目は大丈夫?」
「その声はソフィアか。すまんのう。まさかあんな事になるなんてな。治癒魔法さえ使えれば、この程度の痛みなど、すぐに治るのじゃが」
「……そうだ! 私が治癒魔法を使えば良いんだよ!」
「それはそうじゃが、肝心の文字をソフィアに教える事が出来ぬのじゃ。神代文字はイーリスたちも知らぬしな」
「大丈夫! たぶん、わかるから」

 この前は、『照明』っていう字を書いたら明るくなった。
 という事は、『治癒』っていう字を書けば、治ると思うんだよね。
 そもそも治癒魔法って言っている訳だしさ。
 あと、この前の話で地面に字を書かなくても、文字さえ書けば発動するっていうのが分かったので、いつものパピルス紙に木炭で『治癒』って書いて、長老さんの目の上に置いてみた。

「長老さん、いくよ! えーいっ!」

 治癒の文字に私の魔力を干渉させると、淡く光り始め……良い感じに長老の身体を光が覆っている。
 これはいけるんじゃないだろうか。
 しかも、治癒魔法は中級魔法並の魔力を必要とするようで、照明と違って暴走していなさそう!

「おぉぉぉ……こ、これは! す、凄いぞ! 身体が……身体が熱いっ!」
「え? ちょ、長老さん。大丈夫!?」
「うむ! すこぶる体調が良いのじゃ! ほぁっ!」

 長老さんが謎の叫び声をあげながら、目を覆う布を外すと、ベッドから飛び起きた。

「だ、大丈夫?」
「凄いのじゃ! 長年悩まされていた腰痛が治った! それに膝も痛くない! もちろん目も痛くなくて、ハッキリとソフィアの顔が見えておるぞ!」
「よ、良かった。……ちょっと効き過ぎている気もするけど」
「婆さんや。婆さんもソフィアに治癒魔法を使ってもらうのじゃ! これは凄い効き目じゃぞっ!」

 長老の勧めで、お婆ちゃんも治癒魔法を受ける事になり……お婆ちゃんの曲がっていた腰が伸びたっ!

「これは……ソフィアちゃん! あなた、凄いわ! 二十年ぶりに真っすぐ立てたわっ!」
「それは良かったです。ところで、お二人に相談があるんですが……」
「えぇ、何でも言ってちょうだい。私たちが出来る限りの事はしてあげるわよ」

 お婆ちゃん。話し方が少し変わっていて、もしかして……若返っていないだろうか。
 ううん。真っすぐに立っているから、そう見えているだけ……よね?