水魔法で小川を作ってしまった事件の後、

「ソフィアは魔力の量が多いんだね」

 と、お父さんが驚いたものの、それだけだった。
 いやあの、流石にのんびりを通り越して心配になるレベルなんだけど。
 とはいえ、危ないから魔法禁止とかにされると私が困るんだけどさ。
 ひとまず、将来の為に魔法の本を読んで独学で練習し、時折村の近くに大穴を空けてしまったり、森の主と呼ばれる魔物から怯えられるようになったりしたけど、それなりの日数を費やしたおかげで、中級編と書かれた魔法まで使えるようになった。

「ソフィアちゃん。そろそろおじいちゃんが光魔法を教えてくれるって言っていた頃じゃないかしら?」
「あ、そういえばそうね」

 お父さんの部屋に幾つか魔法の本があるんだけど、光魔法は特殊なのか、一冊も無い。
 これでやっと治癒魔法が使えるようになるかな。

「けど、ソフィアちゃんはまだ十歳なのに、頑張り過ぎじゃないかしら? もっとのんびりで良いと思うわよ?」
「うーん。そんな事を言っている内に、気付いたら大人になっていて困るのもイヤだし、今のうちに出来る事はやっておきたいの」
「でも、大人になるまで、まだ五年もあるのよ?」
「え? 五年!? ……も、もしかして十五歳で大人なの!?」
「もちろん」

 あぁぁぁ! あと、たった五年しかないのっ!?
 しっかり技術を身につけておかないと、待っているのはあのブラックな職場だ。
 何としても、光魔法を使えるようにならないとっ!

「長老さんの所へ行ってくるっ!」
「夕方までには帰ってくるのよー!」

 お母さんの声を聞きつつ、筆記用具を持って長老の家へ。

「長老さん! 光魔法を教えてっ!」
「ん……ソフィアか? そういえば、そんな話をしていたな。では、十日後くらいに……」
「そんなに待っていられないわよっ!」
「ソフィアはまだ幼いのだから、そんなに焦らなくても良いと思うのだが……」

 そう言って長老がゆっくりと目を閉じ……いや、寝ないでよっ!

「長老さん……約束ですよね」
「う、うむ! では、早速始めよう」

 流石に孫から冷たい目と声を向けられたのは効いたのか、慌てて姿勢を正し、いつもの脱線しまくりの話をしてくれた。

「……という訳じゃ。神代文字は古代文字とも呼ばれていて、もう音は失われており、文字で魔力に干渉する……すなわち、魔法陣でしか発動させる事が出来ぬのじゃ」
「音が失われている?」
「うむ。文字は書物で伝達する事は出来ても、正しく発音は伝えられておらぬのじゃ」

 んー、発音記号みたいなのが無かったのかな?
 でも、神代文字って普通に日本語なんだけどな。
 とはいえ、今話している言葉も、私からすれば日本語なんだけどさ。

「その為、まずは神代文字を書けるようにならなければならないのじゃが……ソフィアはワシよりも神代文字を書けそうじゃな」

 長老が私のパピルス紙を見て、何故か困っている。
 お願いだから、もう教える事がない……っていうのは止めてね?

「では、早速実践に移ろう。訓練場へ行くのじゃ」
「訓練場?」
「うむ。神代文字で発動する魔法は、普通の魔力よりも強力なのじゃ。ソフィアに光魔法を教えるにあたり、村から離れた場所に、ワシが作っておいたのじゃ」

 なるほど。だから、五十日もかかるって言っていたのか。
 そういう理由があるなら、ちゃんと教えてくれれば良かったのに。
 長老が実はのんびりしているだけでは無かったと思って、ちょっと見直していると、村から少し歩いた所で足を止める。

「あの、長老さん。ここは?」
「ん? ここが訓練場じゃよ。ソフィアの魔法で木が傷付かぬように、草魔法と木魔法で草木の位置を変えたのじゃ」

 ……えっと、狭いんですけど。
 たぶん、動かした木って一本だけだよね?
 これに五十日は絶対掛からないでしょ。
 ここにあった木を、木魔法であの辺に動かすくらいだったら、一分も掛からないと思うし。
 やっぱりのんびりしたいだけだったのかと思っていると、四畳半に満たない程の剥き出しの土の上に立で、長老から木の枝を渡される。
 おぉー! きっと杖だっ! 物凄く魔法っぽくなってきたっ!