「ただいまー」
「あなたっ! 大変なのっ! ちょっと来てっ!」

 イーリスさんに連れられて、長老さんの家の隣の家へ。
 それから少ししたところで男性が……おそらく私の父が帰ってきて、イーリスさんが大慌てで呼びに行った。
 ちなみにイーリスさんが慌てている原因は、私だったりする。
 というのも……

「あ、あなた。ソフィアちゃんが、私の事を母親ですか? って聞いてきたの! 実の母親の顔を忘れるなんて、私もう立ち直れない!」

 うん。念の為、イーリスさんが母親か確認しようとしたら、泣きだされそうになってしまったんだよね。
 一応、木から落ちて、一時的な記憶喪失で……と、苦しいフォローをいれて見たんだけど、ダメだったみたい。

「ソフィア。僕の事はわかるかい? パパだよ」
「う、うん。わかります」
「ソフィアが敬語で喋った!? イーリス。ソフィアは頭でも打ったのかい!? 見た目はソフィアだけど、まるで別人みたいんだが」

 金髪イケメンエルフのお父さん……正解です!
 頭も打ったし、中身は別人……って、待って。
 もしかして……もしかしてだけど、ソフィアちゃんって木から落ちて頭を打って、亡くなっているのでは!?
 そこへ日本で亡くなったと思われる私が入り込んだ……って事?
 物凄く重大な事に気付いてしまったけど、今更どうする事も出来ないし、私に出来る事というのはこのご両親の為にも、ソフィアちゃんとして長生きしてあげる事だと思う。
 そして、日本のブラック企業で社畜になり果てていた私みたいにならないように、今の幼い内からしっかりスキルを身に着け、ホワイトな職場に就職するんだっ!
 これこそが、両親の為であり、ソフィアちゃんの為であり、私の為になるはずよっ!
 という訳で、社畜時代のように睡眠時間を削ってまで仕事や勉強をする気はないけれど、だからと言って時間を無駄には出来ない。

「お父……パパ。魔法の使い方を学べる本を借りたいんだけど」
「……話し方が変な事になっているけど、遊びはいつも通りだね。ちゃんと片付けるなら、パパの部屋の好きな本を使って構わないよ」
「ありがとー!」

 そうは言ったものの、お父さんの部屋はどこなのだろうか。
 まぁ大きな家ではないし、一つずつ見ていけば良いかな。
 ……と思ったんだけど、よく見たら扉に父の部屋って英語で書いてあった。
 日本語は神代文字とかって文字で、アルファベットは日常で使う文字みたい。
 何故か会話は日本語で出来ているけど……この辺は異世界転生の定番の自動翻訳とかなのかな?
 一応、勤務先の塾で英語を教えていたから、普通に読み書きは出来るけど。
 とりあえず許可は得ているので、父親の部屋に入り、大きな本棚の背表紙を下から順に眺めてみる。

『初めての子育て。父娘編』
『よく分かる子供の気持ち』
『娘と仲良くなりたいお父さんへ』

 英語で描かれた、育児関連のタイトルが沢山目に飛び込んで来たけど、この辺は私が捜している本ではないかな。
 でも育児に積極的に参加しようとしているように見受けられるし、きっとお父さんはイクメンでもあるのだろう。
 次の段は……

『幼女にウケる遊び百選』
『娘と作る花冠デザイン集』
『娘の初めての集団生活』

 えーっと、今度は幼稚園児くらいの時期に読んでいた本かな?
 今の私は幼いけれど、流石に幼稚園児って感じはしない。
 たぶんだけど、身長的に小学三年生から五年生くらいだと思う。
 ただ、小学生が本で城を作ったりするかな?
 長老の家で話していたのは、お母さんの思い出話……なの?
 暫く育児関連の本ばかりだったけど、もう一つ上の段に目を向け……やっと目的の本、魔法関連の本を見つけた。