「これは、エルフ……ですよね?」
「えーっと、私のお爺ちゃんです。何をしているのよ」
「ソフィアさんのお爺さんという事は……エルフの長老様ですかっ!?」

 マンティコアが現れた先で、ランランに明かりで何かが照らされたと思ったら、長老が凍っていた。
 たぶん、私の魔法の巻き添えになったんだろうけど、どうしてこんなところに居るのよ。

「とりあえず、解凍しますね」

 という訳で状態異常回復魔法を使用し、長老を元に戻すと、早速何をしているのか問い詰める。

「……で、お爺ちゃん。どうしてこんなところにいるのかしら?」
「そ、ソフィアよ。そ、そんなに怒ると、婆さんみたいにシワが出来るぞ?」
「お爺ちゃん。もう一回凍る? 今度は治さないけど」
「ま、待ってくれ。これには訳が……訳があるのじゃ」

 長老によると、私を人間の魔法学校へ入学させる事にした後、やっぱり不安になってきたそうで、瞬間移動魔法と透明化魔法を駆使して、ちょくちょく私の様子を見に来ていたらしい。

「えぇー……そういうのは、黙ってやらずに言って欲しかったなぁ」
「うぐっ、すまん。じゃが、言ったら言ったで怒るじゃろ?」
「うん、もちろん」
「し、しかしじゃな。見ているのは移動中とかで、この少年の家の中に居る時や、普段の授業、寮で着替えたり風呂へ入っておる時は見ておらんぞ?」
「当たり前でしょっ!」

 いや、私の中身が大人で、この身体が子供だから、声を荒げるくらいで済ませるけど、中身も思春期の女の子相手にそんな事をしたら、泣き出したり、軽蔑されたり、通報されたりするからね!?
 しかし、時々馬車の中で感じた視線は、お爺ちゃんだったのか。
 とりあえず、エルフの森に戻ったら、お婆ちゃんに告げ口しておこう。

「それで? お爺ちゃんがここに居る理由は?」
「うむ。そこの少年がソフィアと共に、奴の部屋へ入ると言うじゃろ? その少年に、あの部屋へ入る資格があるかどうかを、見せてもらおうかと思ってな」
「ん? 奴の……って、お爺ちゃんは、その昔の国王様を知っているの?」
「勿論じゃ。奴とは一緒に酒を酌み交わした仲じゃからな」

 うーん。長老と昔の国王様が知り合いって事は、この世界でもエルフが長生きって事かな?
 エルフが長生きっていうのは良く聞くし。
 ただ、長老って何歳なんだろう。見た目だけで言うと、たぶん五十歳から六十歳って感じだと思う。
 お母さんが三十歳くらいに見えるから、エルフだけで考えると妥当なんだけど……国王って頻繁に変わらないよね?

「あの、長老様。先程の、独白の部屋に入る資格があるかどうかという話ですが、僕にはあの部屋へ入る資格があるのでしょうか」
「ふふ。そんなに焦るでない。お主は、ワシが出したマンティコアの幻の前に立ち、ソフィアを守ろうとしていたのは良かったぞ」
「ありがとうございます」
「じゃが、二つ減点がある。一つはマンティコアに剣で切りかかって行った事だ。あれが本物のマンティコアであれば、剣や腕を噛まれて動きを封じられ、尻尾の毒針で刺されて終わりじゃ」
「うっ……精進します」
「そしてもう一つじゃ。正直言って、この減点は非常に大きい。一つ目の減点だけならギリギリ及第点であったが、これはワシとしては非常に許しがたいものがある」

 そう言って、長老さんの表情がとても険しくなった。
 一体、何なのだろう。
 エドワードは私を守ろうとしてくれたし、特に何かおかしな言動はなかったけど。

「長老様。僕の大きな減点とは一体何でしょうか」
「うむ。それはじゃな……」
「それは……?」
「ワシの可愛い孫娘のソフィアに抱きついた事じゃっ! 何故あの場面でソフィアに抱きついたのじゃっ!」

 えぇ……そんな理由!?

「私が密着してってエドワードに言ったからよ。広範囲の氷魔法にエドワードを巻きこまないように」
「なっ……そ、そんな! ならばワシにもハグさせて……」
「ヤダ」
「そ、そんなぁぁぁっ!」
「じゃあ、それは私の指示にエドワードが従ってくれたからって事で、その昔の王様の部屋に入っても良いわよね?」
「うーん……」
「お爺ちゃん? い、い、わ、よ、ね?」
「う、うむっ! 合格なのじゃっ! じゃが、ワシが作った魔法の扉は二人で力を合わせて開けるのじゃ。入る資格はあるが、入れるかどうかは別問題なのじゃ」

 ひとまずエドワードが長老の眼鏡に適ったみたいだけど……長老が、攻撃してくる扉を作ったのっ!?