「はぁっ!」

 エドワードがマンティコアに向かって剣を振り下ろすが、大きな体躯とは思えない身軽さで、ひらりと避けられる。
 どうしよう! 攻撃系の魔法は暴走させちゃったら、洞窟が崩れて私も……エドワードも死んじゃう!
 でも、目の前にいるマンティコアは、人を食べる魔物だっていうし、後ろにいた人も気になるから、早くなんとかしなきゃ!
 得意なのは水と風だけど、水は溺死、風は洞窟を壊す可能性が大いにある。
 火、土、木、雷はやらかしそうだし、光と草については攻撃方法がイメージ出来ない。
 となると、残りは……あっ! これならっ!

「エドワード! 大きな魔法を使うから下がって!」
「えっ……ソフィアさん。洞窟を壊したりするのは……」
「そこまではしないわよっ! それより、鎧を脱いでっ! 早くっ!」
「えぇっ!? は、はい……わかりました」

 エドワードに私の横まで下がってもらうと、急いで上半身を覆う鎧を外してもらう。
 幸い、マンティコアはランタンの灯りで見える場所に止まり、こちらを様子見している。
 なので、やるなら今っ!

「ぬ、脱ぎましたっ!」
「じゃあ、私のすぐ傍に来て! 抱きつくくらいにっ!」
「「「えぇぇっ!?」」」

 一瞬、エドワード以外にも驚く声が聞こえたような気がしたけど、マンティコアを何とかする方が先っ!
 私の言葉に、エドワードは戸惑っていたけど、私が魔法を発動させようとしているのに気付いて、慌てて抱きついてきた。

「だ、抱きしめました!」
「いくわよっ! ……フロストッ!」

 エドワードに抱きつかれながら、授業でやった氷の初級魔法を発動させると、私たちを中心に周囲へ霜が広がっていく。
 授業では、うっかりこの霜に触れてしまった学校長が氷漬けになったのだが、これならマンティコアも、そして後ろに隠れているであろう人物も氷漬けに出来るはずっ!
 そう思ってこの氷魔法を使ったんだけど、霜がマンティコアに触れたのに……凍らないっ!?
 初級の氷魔法はマンティコアに一切効いていないように見えるんだけど……なぜか、突然マンティコアの姿が掻き消えた。
 その直後、

「きゃぁっ!」

 後ろから女性の悲鳴が聞こえてくる。
 どうしてマンティコアが消えたのかは分からないけど、後ろの人物に聞けばわかるかもしれない!

「……って、エドワード! いつまで抱きしめてるのよっ!」
「えぇっ!? ソフィアさんが抱きしめてと……んっ!? これは、氷魔法ですか!?」
「えぇ。辺り一面に霜を生み出す魔法だから、念の為に金属の鎧を脱いでもらったけど、私にくっついていたから魔法の影響は受けなかったみたいね。それより、エドワード。後ろを確認しましょう。さっきから誰かがつけてきていたの」
「何ですって!?」
「おそらく、さっきのマンティコアも、後ろの人と関係があると思う。……行くわよ」

 鎧を着なおす時間がないので、盾とカンテラを持ってもらい、エドワードと共に後ろへ。
 カンテラで照らして歩いていると……

「えっ!? り、リディアっ!? ど、どうして!?」

 エドワードの家で、一番最初に私を案内してくれたメイドさんが氷漬けになっていた。