「あれ? ここって、エドワードのお屋敷よね?」
「はい。この敷地内に目的地があるんです」

 馬車を降りると、いつもの広い中庭を歩いて行き、大きな屋敷へ。
 準備があるから少しだけ待っていて欲しいと言われ、応接室に通される。
 あ……ここでも紅茶が出るんだ。
 飲み過ぎでお腹がタプタプになりそうなので、気持ちだけもらっておこうと思うんだけど、一緒にカヌレが出てきた!
 さっき私がクッキーを食べなかったから、出すお菓子を変えてきたの!?
 違うの! 単に朝ごはんを食べた直後で、お腹がいっぱいだっただけなのっ!
 だけど、初めて出てきたカヌレを前に、思わず手を伸ばし、

「……ふわぁー! 美味しい!」
「お嬢様に喜んでいただけて、何よりです」

 美味しくいただいたら、メイドさんが安堵していた。
 普段、出されたお菓子やスイーツは基本的に残さず食べているから、手を付けなかったから心配されていたみたい。
 食べなかったのは朝食を食べた直後だったからだと説明すると、後でお土産に包んでくれるという話をしたところで、エドワードが戻ってきた。
 戻って来たんだけど、その出で立ちが、思っていたのと全然違って……何故か銀色の鎧に身を包み、剣と盾を持っていた。

「え、エドワード!? えっと、その独白の部屋っていうところで何をするつもりなの?」
「改めて経緯をお話しさせていただくと……この国の昔の国王がエルフに酷い事をして、エルフから敵視されるようになったという話がありましたよね?」
「そうね。初めてエドワードの家に来た時に、エルフと人間の話になったわね」
「僕としては、当時の国王がエルフに酷い事をするに至った、理由があると思うんです。そして、その理由を知り、原因を除去した暁には、エルフのみなさんと交流を再開させたいと考えています」

 なるほど。エドワードはこの国の貴族として、すぐ隣に住むエルフと仲直りしたいって事ね。
 私や長老なら、そんな理由なんて気にしなくても良いけど、お母さんなんかは気にしそうだもんね。

「わかったわ。私もエルフの一人として協力するわ。だけど今の話と、その独白の部屋っていう場所がどう繋がるの?」
「独白の部屋は、その国王が作った秘密の部屋なんです。だから、その部屋に行けば、何かしらの情報がきっと見つかるのではないかと思いまして」
「そうなんだ。でも、その昔の国王の部屋に行くのに、どうしてそんな凄い格好なの?」
「その部屋には、エルフの強力な魔法が掛かっていまして、扉に近付くだけで攻撃されるんです。本当は、僕一人でその部屋に入れるだけの力を身に付けたかったのですが、この数日間ソフィアさんに魔法を教えてもらい、僕は扉にかけられた魔法を解除する役ではなく、何があってもソフィアさんを守る盾になるべきだと判断しました」

 私を守る盾……って、それでそんな格好なんだ。
 いやでも、扉が攻撃してくるって、どういう魔法なんだろう?
 ドアノブを飛ばしてくるとか?

「えっと、私はその扉に掛けられている魔法を解除すれば良いのかな?」
「もしくは、扉を破壊しても構いません。とはいえ部屋の中まで壊されると、探す対象の資料まで消失しかねないので、そこは注意いただけると嬉しいのですが」
「流石にそれは大丈夫よ……たぶん」

 とりあえず、その扉がどんなものなのかを見てみないと何とも言えないしね。

「ちなみに、ふと思ったんだけど、その盾の役ってエドワードじゃなくても、もっと強そうな大人の人にお願いするとかはダメなの?」
「僕が扉の魔法を解除する役でしたら、そうしたでしょうけど、ソフィアさんに魔法の解除をお願いしておいて、僕だけ安全なところから見ているだけ……というのは、どうしてもイヤなので」

 エドワードは貴族なのだから、人とか部下とかを使う事を知っておいた方が良い気もするんだけどな。
 まぁそういう私も部下が居た事なんてないし、お金を払って代わりに危険な事をお願いするっていうのも、確かに言い辛い。
 という訳で、私の壮大な勘違いも収まったので、独白の部屋という所へ向かうことに。
 ……ただ今更だけど、どうしてエドワードの家に昔の王様の秘密の部屋があるんだろ?
 もしかしてエドワードって……貴族の中でも位が高い、公爵の家系だったりするのだろうか。