「ふう。とりあえず、こんなところかな」

 ゴワゴワして書きにくい紙と、太すぎる木炭のペンに苦戦しながら、何とか長老から聞いた話の要点を纏めあげた。
 もしも、魔法の使い方をど忘れしてしまったら、このメモを見返す事にしよう。

「ふわぁ……ん? ソフィアよ。お絵描きは終わったのか?」
「終わったよ。お絵描きではないけどね」
「どれどれ……ぶほぉっ!」

 えっ!? どうしたの!? 私のメモを見た長老が、突然噴き出したけど……あ! もしかして日本語がマズかったとか!?
 オリジナルの意味不明な文字を書いてる……って、変な子だと思われちゃったの!?

「た、大変じゃ……イーリス! イーリスーっ!」

 長老が大慌てで出て行ったけど、一体どうしたんだろう。
 イーリスって誰? 女性の名前っぽいけど。
 そんな事を考えている内に、長老が女性を連れて戻ってきた。

「お父さん。何かの間違いですよ。ソフィアがそんな……」
「いや、本当じゃ! イーリス、これを見てみよ! ソフィアが自分で書いたんじゃ!」

 長老の事をお父さんと呼ぶあたり、このイーリスという女性は長老の娘で……私の母親の可能性が高い。
 まぁ実は伯母っていう可能性もあるけどさ。

「これは……お父さん。何ですか?」
「何ですか……ではないっ! 神代文字ではないかっ! ソフィアは、何も見ずにスラスラと書いておった。この年でここまで書けるとは……ソフィアは天才じゃ!」

 神代文字!?
 いやあの、普通の日本語なんですけど。
 とりあえず、知らない文字を書きなぐるヤバい子供と思われなくて良かった。

「ソフィアちゃん。神代文字なんて、いつの間に書けるようになったの? ママも書けないのに」
「え、えっと……本。本を読んでたら、いつのまにか書けるようになっていたの」
「本? あー、確かにソフィアちゃんは、よくパパの本でお城を作って遊んで……じ、実はちゃんと中身も読んでいたのね? 凄いわぁー!」

 えーっと、イーリスさんはのんびりというか、おっとりした人みたいね。
 さっきの理由で納得するかなー?
 まぁ私としては助かったけど。

「イーリスよ。神代文字の読み書きが出来るのであれば、ソフィアは光魔法を習得する事が出来るかもしれんな」
「長老さん。光魔法って?」
「その名の通り、光に働きかける魔法じゃ。ワシがソフィアに使った治癒魔法なども、光魔法に含まれる」
「じゃあ、私も人の怪我を治したり出来るの?」
「その可能性は大いにあるな。このエルフの村では今のところワシしか使えないが、ソフィアに伝授出来そうで何よりじゃ」

 おぉぉー! 結局、神代文字っていうのが何かはわからないけど、治癒魔法っていうのは使ってみたい。
 日本ではブラックな進学塾で講師をしていたけど、看護師さんにもなりたかったんだよね。
 大学進学時に教育学部か医療系かで選択を間違えちゃったなー……って、過去の事は置いといて、是非とも治癒魔法を教えて欲しい。

「長老さん。じゃあ、明日から治癒魔法を教えてください」
「あ、明日っ!? ソフィア。そんなに焦らなくてもよい……そうだな。百日後とかで……」
「百日!? そんなの待ってられません! 明日が無理なら、明後日でお願いします」
「……イーリス。ソフィアに無理をさせ過ぎではないか?」

 割と普通の話をしているつもりなんだけど、何故か長老が困った表情を浮かべてイーリスさんに助けを求める。

「えっと、ソフィアちゃん。二日後から光魔法のお勉強だなんて急過ぎるわ。パパにも相談したいし……そうね。せめて五十日後からでどう?」
「話なら、今日すれば良いと思います。という訳で長老さん。明後日から、光魔法をお願いしますね」
「……イーリス。もしもワシが倒れたら、後は頼む」

 いやあの、何か大袈裟すぎない?
 それとも、草魔法や風魔法と違って、光魔法は教える側も凄くハードなの!?
 これまでの傾向から、また無駄話が沢山混じった長老の話を聞くだけだと思うんだけどな。