エドワードの家で着せ替え人形にされてしまった日から数日。
 毎日放課後にエドワードの家へ行き、魔法の訓練を行なっているんだけど、その都度ドレスに着替えさせられる。
 いや、着替えさせられるというか、私は立っているだけで、メイドさんが全部やってくれるんだけどさ。
 そんな日々を過ごす中で、エルフの森にはなかった……そして、ブラックな職場で働いていて、すっかり忘れていたものが訪れる。

「そうそう、ソフィアさん。明日の週末ですが流石に毎日は申し訳ないので、家庭教師はお休みにしようかと……あの、ソフィアさん?」
「え? お休……み?」
「えぇ。あ、もしかして、週末も来られますか? 僕は全く構いませんが」

 エドワードの屋敷から寮へ送ってもらう馬車の中で、エドワードが変な事を言い出した。
 お休み? ……お休みって何だっけ?
 次に一回あるかないかの、休講日の事?
 お盆は、夏季特別合宿があって、お正月は入試直前の特別対策合宿があって……えっと、えーっと、お仕事が無い日って事か!

「さ、流石に週末もお邪魔しちゃうと、メイドさんたちに悪いかな」
「どうでしょう。ソフィアさんはメイドさんたちから人気ですので、むしほ来て下さった方が喜ぶかもしれませんよ?」
「それって、人形遊び的な感じなのかしら」

 なんて言うか、悪い言い方をすると、オモチャにされているような気がしなくもない。

「あはは。ソフィアさんは可愛いと綺麗を両方兼ね備えているので、メイドさんたちが腕を競い合っているのかもしれませんね」

 じゃあ、やっぱりオモチャ扱いされている……と言い掛けて、エドワードがサラッと言った、可愛くて綺麗という言葉が、私に向けられているのだと理解し、思わず赤面してしまう。
 とりあえず一旦落ち着こう。
 社交辞令……そう、今のは社交辞令よ。
 今はエドワードの顔をまともに見られないので、馬車の窓から外を眺めていると、窓の外から視線を感じた。
 だけど、私が視線に気付いたからだろうか。
 先程感じた視線が一瞬で消えた。
 一体、今のは何だったのだろうか。

「……さん? ソフィアさん?」
「えっ!? あ、エドワード。どうしたの?」
「いえ、もう寮へ着いたのでお声がけしたのですが」
「……あ。ごめんなさい。ちょっと考え事をしていたの。じゃあ、また学校でね」
「えぇ。それではまた」

 エドワードにエスコートしてもらい、馬車から降りる。
 先程視線を感じたのは……しまった。もっとしかっり周囲を見ておくべきだったわね。
 先程の視線が私を見ていたのか、エドワードを見ていたのか、それとも両方か。
 ……普通に考えたらエドワードよね。
 私はただのエルフの子供で、エドワードは貴族だろうし。
 ……そうだ!

「エドワード、ちょっと待って!」
「ソフィアさん? どうされたのですか? もしかして、スイーツのおかわりが欲しくなったとか?」
「それはちょっと魅力的だけど、またの機会にお願いするわ。それより……まずはこれっ!」

『防御』

 エドワードの豪華な馬車に文字を書いたら怒られそうなので、馬車の御者さんにメモ用紙をもらい、扉に挟んでおいた。
 それから反対側の扉から馬車に乗ると、視線を感じたので注意するように伝えたんだけど、

「それは、僕よりソフィアさんの方が狙われているのでは?」

 と、エドワードがよくわからない事を言い出した。
 ただの子供の私が狙われる訳ないでしょ。

「ひとまず、この馬車に防御魔法を掛けておいたから、余程の事がない限り、壊されたりはしないと思うわ」
「え? 防御魔法!? むしろ、そっちの話を詳しく聞きたいんですが」
「とにかく忠告はしたからね? 気を付けて帰るのよ?」
「いやあの、ソフィアさん? 詳しく……ソフィアさーん!」

 魔法好きのエドワードが、防御魔法について詳しく聞きたそうにしていたけど、それをスルーして私は学校の寮へ。
 エドワードに悪い事が怒らなければよいんだけど……えっと、一応私は家庭教師だし、スイーツをくれる人が居なくなると困るしね。
 ……あのまま馬車に乗ってエドワードの屋敷まで護衛した方がよいのかな? と今更ながらに少し不安になりながら、自室へ戻る事にした。