綺麗なドレスに身を包んだ、ご令嬢……鏡の前に映る私は、そんな状態になっていた。

「ちょ、ちょっと待って。なすがままにされていたら、凄い事になっているんですけどっ!」
「いやー、昨日来られた時も勿体ないって思っていたんですよ。サラサラの金髪に、白い肌とスレンダーな身体。原石のままでも十二分に可愛らしい感じだったんですけど、少し髪の毛とか服とかを変えて、ほんの少し薄めのメイクをしただけで、綺麗系になったでしょ?」

 そう言って、私を変身させたメイドさんが、色んな角度から私を見てくる。
 いや、私も日本ではメイクくらいしてたよ?
 社会人だし、塾の講師で人前に立つし。
 だけど、あまりにもブラックな環境で、いつしか最低限の事だけしておけば良いでしょって心が死んだのと、エルフに着飾ったり、お化粧したりする人なんていなかったから、おしゃれっていう感覚自体すっかり失っていた。

「いやいや、自画自賛で申し訳ないですが、今のお嬢様なら、将来の王妃様も有り得ますよ」
「ぶっ! ……な、何を言い出すんですかっ!?」
「いえ、本当ですよ。流石に今すぐは無理かもですが、もう少し大きくなられたら、王太子様も堕とせますって」

 いや、王太子とか会った事すらないし。
 昨日、エドワードが言っていた、私を……じゃない、エルフと人間の王族の婚姻を進言するって話を受けて、こんな事を言っているのだろうけど、年齢的にも私はないでしょ。
 まぁその、確かに今の私は可愛いけど、子供の時に可愛いのは当たり前で、そのまま大きくなれるとは限らないからね。

「さぁ、あまりお待たせしても宜しくないですし、参りましょう」

 メイドさんに促されて脱衣所を出ると、外で待機していたメイドさんたちが……二度見してきたっ!?
 や、やっぱりこの格好は目立つというか、そもそも部外者がドレスなんて着るなよ……って事かも。

「綺麗……私も、あんなサラサラな髪に生まれたかった」
「お風呂上がりだから? 白く透き通るような肌がほんのりピンクがかって……元々可愛らしいお嬢様の魅力が、跳ね上がっているわ」
「くっ。坊ちゃん……」

 違った。
 普通にベタ褒めされてた。
 えっと、このメイドさんの腕が凄いのね。
 ただ、羨望の眼差しや、可愛いと微笑んでくれる瞳の中に、ほんの僅かに嫉妬のような視線が混ざっていたような気がするんだけど……き、気のせいかな?
 それから、昨日と同じ応接室へ通されると、エドワードが待っていて……

「……えっ!? そ、ソフィアさんっ!?」
「は、はい」
「これは……どうやら僕はとんでもない勘違いをしていたみたいだ」
「……?」
「ソフィアさんはエルフの長老の孫だとお聞きしておりましたが、お姫様でもあったんですね」

 ……お、お姫様って。
 え、エドワードの冗談に何と返せば良いか分からず困惑していると、エドワードが手を差し出してきた。
 何だろうと思って手を取ると、二人掛けのソファへ導かれ、隣同士で座る。
 いやいやいや、昨日は対面で座っていたよね!?
 ドレス効果?
 いや、何の効果なのよっ!
 あと、エドワードは座ったんだから手を離そうよっ!
 それから、メイドさんたちから沢山視線を浴びつつ、運ばれてきたスイーツを食べて、何かの話をして寮まで送ってもらった。
 だけど、残念な事が一つ。

「せっかくのマカロンだったのに、味を覚えてなーいっ!」

 それに、何を話したかも覚えてないので、変な事を口走っていたらどうしよう。
 自室のベッドで悶絶し……いつの間にか眠ってしまっていた。