「いきます! アクア・ブリット」

 エドワードが本当に魔法攻撃してきたっ!
 まっすぐに拳大の水の弾が飛んで来る!?
 嘘でしょ!?
 こんなに小さな女の子に向かって攻撃するなんて……ん?
 あれ? この水の弾……物凄く遅いんだけど。
 一歩横に動くと、そのまま後ろへ飛んでいき、パシャっと水風船が割れる音みたいなのが聞こえてきた。

「くっ! 流石はソフィアさん。やりますね」
「……つ、次は私の番よっ!」

 どうしよう。今のエドワードの攻撃が、本気の攻撃なのか、私にケガをさせないように威力を落としたものなのか、それとも笑わせにきているのかが判断出来ない。
 いずれにせよ、本気で攻撃する訳にいかないのと、基礎魔法だと暴走させてしまうので、良い感じの魔法を使わないと……これでどう!?

「アース・ウォール」
「わっ! 凄い……」

 私の魔法で、エドワードの目の前に二メートルくらいの土の壁が生み出される。
 ……あ、そうだ。この土の壁でエドワードを囲っちゃえば、動けなくなって私の勝ちじゃない?
 という訳で、土の壁を何度か使い、エドワードを完全に囲った。
 よし。これで戦いは終わり! 次はスイーツね!
 そう思っていると……

「たぁっ!」

 何をどうやったのか、私の身長よりも遥かに高い壁をエドワードが乗り越え、飛び降りた。
 しかも、パルクールみたいに着地する時に回って、衝撃を逃がしているみたい。
 ……あれ? エドワードって、もしかして身体能力が物凄く高い?
 そのまま走って来て、剣を使われたら確実に私の負けなんだけど、剣は使えないルールだからか、その場に立ち止まり、再び水の弾を放ってきた。

「アクア・ブリット」

 実は最初の魔法がブラフで、本命の今回は弾が速い……という事もなく、またもやゆっくりとした弾だったので、余裕で避ける。
 とりあえず、エドワードは魔法を使う時に立ち止まるから、隙が大きいわよ?
 という訳で、エドワードの真下に穴を開ける魔法を使い、落とし穴のように落下させる。

「うわっ! ……っと、浅い?」

 もちろん、ケガをさせる訳にはいかないので、穴の深さを一メートルくらいにしておいた。
 だけど、さっきの壁を乗り越えたエドワードが、この穴から出られない訳はないので、続けて水の魔法を使い、この穴の周辺を泥に変える。

「これは……ぬ、抜けないっ!?」
「ふっふっふ。攻撃魔法を使わなくとも、こんな風に相手を無力化しちゃえば勝ちよね?」
「……えぇ。まさか、ここまで手も足も出ないなんて。降参です」
「じゃあ、次はスイーツよね。エドワード、早く着替えて戻りましょう」

 下半身が泥に埋もれたエドワードに手を差し伸べると、エドワードが私の手を取り……引っ張られる!?

「きゃぁっ!」
「これで一本取れたかな?」
「……やったわねー。えーいっ!」
「待って、待って。顔は……」

 泥に落ちた両手でエドワードのほっぺたを挟み、仕返しで顔を泥だらけにしてあげた。
 それから二人で大笑いして……離れて私たちを見ていたメイドさんから、二人揃って怒られてしまった。
 よく考えたら、メイドさんのお仕事をメチャクチャ増やしちゃったわね。
 まぁ怒られた理由はそれではなくて、泥遊びが許されるのは六歳くらいまで……という理由だったけど。

「レイン・コール」

 局所的に……泥から出た私とエドワードの頭上に雨を降らせて泥を洗い流すと、

「坊ちゃんもソフィアお嬢様も、お菓子の前にお風呂ですっ!」

 さっきの脱衣所みたいな部屋の奥がお風呂らしくて、メイドさんたちに連れて行かれる。
 服を全て脱がされると、ライオンの顔からお湯が出ている、王様が入ってそうな大きなお風呂へ。
 ……この年齢なら泳いでも怒られないのではないだろうか。
 少しだけそんな気持ちが湧きあがったものの、

「ソフィアお嬢様。こちらへ」
「え? いえ、自分で洗えますけど」
「泥遊びをされたのです。髪の毛なども汚れておりますし、我々に任せていただきます」

 三人のメイドさんに身体を洗われ、身体を拭いたり髪を乾かしたり、着替えまでされてしまった。
 着せ替え人形みたいに扱われたけど、髪の毛のセットと着替えが完了すると、

「はわゎゎゎ……やっぱり! 思っていた通り可愛いですぅぅぅっ!」

 メイドさんの一人が絶叫し、鏡の前に立たされる。
 鏡の前には本当にお人形さんみたいな可愛い女の子が居て……

「えぇっ!? これ、私なのっ!?」

 自分で言うのも何だけど、すっごい美少女になっていた。