化学と呼ばれている薬草学が面白かったので、簡単すぎる算術の授業は、こっそり薬草学の教科書を読む事にした。
 ……なるほど。草魔法や木魔法を使う事で、薬草の質を向上させ、結果的に薬の効能を引き上げる事が出来るんだ。

「では、この問題を……ソフィアさん」

 ふむふむ。薬草の種類によっては、採取したらすぐに使った方が良いタイプと、一旦乾燥させた方が良い物があったりするんだね。
 これは覚えるしかないのかなー?
 それとも、この教科書に乗っていないだけで、実は法則性があるのかな?

「あの、ソフィアさん……呼ばれてるよ?」
「えっ!? 何ですか!? ……八です」
「……せ、正解です」

 エドワードがこそっと教えてくれたけど、流石に授業を全く聞いていないのはマズかったかな?
 そう思っていたら……

「流石、ソフィアさんです! まさか台形の面積を瞬時に計算するなんて」

 あ、全然怒ってなかった。
 というか、小学校くらいのレベルの授業をされても、困るんだけどな。
 何故か、算術だけが極端に内容が簡単なんだよね。
 そんな事を考えながら、再びこっそり薬草学の本を読んでいる内に、本日の授業が終了した。
 残念ながら教科書は教室から持ち出し禁止なので、そのままエドワードについていき、馬車に乗せてもらう。

「「「お帰りなさいませ」」」

 おぉー。相変わらず今日も少しも乱れずにエドワードを出迎える。
 凄いなーと、他人事のように眺めていたら、

「ソフィアお嬢様。本日は坊ちゃまの魔法の家庭教師をしてくださると伺っております。訓練着をご用意しておりますので、どうぞこちらへ」
「あ、どうも」

 昨日私を案内してくれたメイドさんに声を掛けられ、通路を歩き、廊下を渡って、階段を登り……いや、この家が広すぎるんですけどっ!

「こちらでございます」
「あ、ありがとうございます」

 案内してもらった部屋は、凄く豪華な銭湯の脱衣所というか、脱いだ服を入れると思われる籠が置かれてあって、椅子の上に動き易そうな服が置いてあるので、早速着替える。
 鏡も用意してあるので、着替え終わって見てみると……うん、サイズはピッタリ。
 昨日の今日なのに、どうやって用意したんだろう。
 ただ……今の服装が半袖半ズボンで、幼稚園とか小学校の体操服みたいなんだけど、これが異世界の訓練着なの!? 本当に!?
 鏡を見る限りでは、完全に小学生が今から体育の授業をするって感じなんだけど……うぅ、待たせても悪いし、このまま行くしかないか。
 スイーツのため……と自分に言い聞かせて部屋を出ると、先程のメイドさんに連れられて、再び移動する。
 着いた先は、魔法学校にある訓練場とは違い、屋外の運動場みたいな場所で、そこにエドワードが直立不動で待っていた。

「失礼します。ソフィアお嬢様をお連れ致しました」
「ありがとう。ソフィアさんも、付き合ってもらって、すみません」
「いえ、家庭教師を引き受けたから、それは構わないんだけど……ちょーっと格好がおかしくない!?」

 てっきりエドワードも体操服みたいな格好かと思ったんだけど、普通のシャツに革の長ズボンで、手には木剣……って、手ぶらで体操服の私と差がありすぎない!?

「あ、この剣は普段訓練する時にいつも持っているから、ないと落ち着かないっていうか、この剣でソフィアさんを攻撃したりするような事は絶対にないから気にしないでください」
「うん。もしもその剣を振り下ろされたりしたら、私はすぐに帰るわよ」
「大丈夫ですよ。誓ってそんな事はしません。ですが……今回は魔法の訓練をお願いしています。僕がソフィアさんに魔法で勝てる見込みはまずありませんが、是非実戦形式でお願いします」

 いやあの、実戦形式って言うけど、私は誰かと戦った事なんてないわよ?
 だって、魔法の練習で森の中に大穴を空けまくっていたら、魔物の方が怯えて近寄らなくなったもん。
 当然、対人戦なんてやった事もないから、全然役に立てないと思……

「では、ソフィアさん! 胸をお借りします!」

 って、エドワードが私に向かって魔法を使ってきたっ!