メイドさんが、ワゴンに乗せられた銀のクローシュを持ち上げると、姿を現したのは……

「シフォンケーキだっ! ……こ、こほん。と、とても良い香りですね」

 無意識の内に、食い入るようにケーキを見つめてしまっていた事に気付き、慌てて取り繕う。

「ふふっ、ソフィアさんが甘いものがお好きだという事は知っているので、お気になさらず。それに、さっきの様子は可愛らしかったですよ」

 エドワードが微笑みながらフォローしてくれたけど、完全に取り繕いは失敗だったみたい。
 まぁシフォンケーキが見えた瞬間、思いっきりテンションが上がっちゃったからね。
 可愛らしいっていうのも年相応って意味だろうけど、私の中身は大人なのよ。
 内心では反省しつつも、メイドさんによって私の前へケーキが置かれたら、そんな事はすっかり忘れて、目が釘付けになってしまった。

「えっと、このケーキはソフィアさんの為に、パティシエが作ってくれたので、どうぞ召し上がってください」
「い、いただきますっ!」

 エドワードに食べて良いと言われたので、早速フォークに手を伸ばし……ふわっふわで美味しいっ!
 仄かに香るのは、オレンジ……かな?
 どうやら生地に刻んだオレンジの皮が練り込まれているみたい。
 クリームも甘過ぎなくて、でもしっとりしていて……ふわぁぁぁっ! 幸せっ!
 一口食べる度に身体の中へ幸せが入っていく……と思っていたんだけど、気付いた時には付け合わせのフルーツも含め、いつの間にかケーキを完食してしまっていた。

「あ、あれ!? いつの間に!?」
「ソフィアさんが顔を輝かせながら、美味しそうに食べましたよ」
「えぇっ!? そ、そっか……」
「あー……ソフィアさん。良ければ僕のを食べますか? まだ手をつけていませんし」

 そういって、エドワードがニコニコしながらケーキを差し出してくる。
 ……確かにこのシフォンケーキは、国宝にした方が良いのではないかってくらいに美味しかった。
 だけど人として……大人として、自分の半分くらいしか生きていないであろうエドワードから、こんなに美味しいケーキを奪ってしまって良いのだろうか。
 だ、ダメ……断らないと! エドワードに甘える訳には……うぅ。ケーキ美味しそうっ!

「坊ちゃま、いけません。いくら口当たり良くて食べ易いからといっても、ソフィアさんのお身体でケーキ二つは食べ過ぎです! お腹を壊してしまいます」
「そ、そうか。リディアがそう言うなら仕方ないか。ソフィアさん、ごめんね」
「い、いえ。そちらのメイドさんの仰る通りです。私の身体でケーキ二つは食べ過ぎですよね」

 一番最初に私を部屋に案内してくれたメイドさんが注意し、結局エドワードがケーキを自分で食べる事に。
 いや、当然なのよ?
 だって、あれはエドワードの分だし。
 けど、あぁぁぁ……ケーキぃぃぃっ!
 な、何か。何か別の事を考えて気を紛らわそう。
 そんな事を考えているうちに、思っていたよりも早く食べ終えたエドワードが口を開く。

「ソフィアさん。先程のお話の続きですが、僕に魔法を教えてくれませんか?」
「魔法なら魔法学校で……あ、エルフの魔法をって事?」
「はい。ちょっと訳ありで、僕は学校外で魔法の勉強や訓練の時間を作るのが難しいんです。そのため、魔法の勉強を少しでも効率化出来ればと思っていまして」
「うーん。教えるって言っても、私だって魔法を勉強する為に学校へ通っている訳だし、どうかなー?」
「しかしながら、ソフィアさんはエルフの中でも飛びぬけて秀才だとか。特に、勉強に対する姿勢が凄まじいと、エルフの長老様から太鼓判を押された……と学校長から聞いています。少なくとも、勉強の仕方は御存知では?」

 えぇー……長老さんは学校長に何を話しているのよ。
 というか、学校長も一生徒であるエドワードに私の事を話し過ぎでは?
 異世界にプライバシーとか個人情報とかって概念は無さそうなので、それを咎めても仕方ないとは思うけど、どうしようかと考えていたら……

「もしもソフィアさんが僕の魔法の家庭教師を引き受けてくださるなら、毎日スイーツが食べられますよ?」
「やるっ! やりますっ! エドワード、一緒に勉強を頑張ろうね!」

 エドワードから魅力的過ぎる提案をされてしまい、ついつい家庭教師を引き受けてしまった。