エドワードがいつもの制服姿ではなく、カジュアルな格好で戻って来たのだけど……なんて言うか、全てに光沢があって、高価な品だと伺わせる箇所が幾つかある。
 とりあえず、そのシャツってシルクよね?
 そこに金色の紋章みたいのが付いているんだけど、刺繍でしょ?

「ソフィアさん。うちのクッキーはいかがでした?」
「すっごく美味しかった! もしかして、毎日こんなのを食べているの?」
「そうですね。僕が帰る時間を見計らって、焼き立てのお菓子を用意してくれていますね」
「ふわぁー! いいなー!」

 貴族……いいなぁ。正直、羨ましい。
 いや、もちろん貴族には貴族の大変さがあるんだろうけどさ。
 ただ、日本では普通の一般庶民だったし、エルフには貴族なんて無いから、この辺の感覚が一切わからないのよね。

「ところでソフィアさん。スイーツが出来上がるまで、せっかくですからエルフの文化について教えていただけませんか?」
「エルフの文化? 魔法じゃなくて?」
「魔法も教えていただけるんですか!? でしたら是非っ!」

 しまった。
 ちょっと余計な事を言ってしまい、エドワードが顔を輝かせる。

「えっと、教えるのは良いんだけど、どうしてエルフの文化や魔法の事を知りたがるの?」
「まずエルフの事ですが、この国はおそらく世界で唯一、すぐ隣にエルフの森がある国です。余計な争いの種を産まない為に、また隣人として親睦を深められるように、エルフの文化や考え方を理解したいんです」

 おぉっと。思っていた以上に、物凄くしっかりした答えが帰ってきた。
 エドワードの家の貴族としての階級みたいなのが、何なのかはわからないけど、おそらくこの街の周辺一帯を治めている感じなのだろう。
 けど私としても、変にエルフを怖がったり、敵対されるよりかは、仲良くしてくれた方が絶対に良い。
 ただ……懸念もあるけど。

「なるほど。私としても、それは凄く嬉しいし、良いと思う。だけど、エルフの中には人間を敵視していたり、恐怖の対象としている者もいるのよね。たぶん、私や長老……というか、お爺ちゃんみたいに、人間をそんな風に見ていないのは珍しい部類に入るかも」
「そうなのですね。しかし、人間を敵視ですか。高祖父が……こほん。かつての国王がエルフに対して酷い仕打ちを行ったと聞いた事があります。今の人間にとっては過去の話ですが、エルフからすると昔の話ではないのでしょうね」
「まぁ昔の事でも、根に持つ人は根に持つからねー。こういうのは解決が難しいのかもしれないね」
「そうですね。この難しい問題を解決するには、人間の王族とエルフが血縁関係になるとか、それくらいの大きな事を行わないといけないでしょうね」

 ちょ、ちょっと。
 エドワードがエルフと血縁関係に……と言った瞬間、部屋の隅に控えていたメイドさんたちが動揺したように見える。
 流石にエドワードを前にして、騒ついたりはしないけど、メイドさん同士がアイコンタクトで何かやり取りしていそうな気がするんだけど。
 ……って、ちょっと待って!
 まさかエドワードは貴族として、今の話を父親とか、偉い貴族……なんなら王族とかに進言したりしないよね!?
 今の話を実行に移そうと思ったら、真っ先に白羽の矢が私に立つのが火を見るより明らかじゃない!
 ……あ、でも今の私は子供だった。
 一瞬凄く焦ったけど、大丈夫よね。
 いきなり見ず知らずの王子様と結婚なんて、そんな話はないでしょ。
 紅茶をいただいて心を落ち着かせていると、

「失礼します」

 メイドさんが銀色のワゴンを押してやってきた。
 やったー! ついに念願のスイーツだっ!