初日の授業を終えて、学生寮に泊まり、翌日教室へ行くと、すぐにエドワードが駆け寄ってきた。

「ソフィアさん! 聞きましたよ。何でも、基礎魔法で訓練場の魔法防護壁を破壊したとか。攻撃魔法ですらないのに、一体どうやったんですか!?」
「うぅ……ち、違うの。別に壊そうと思った訳ではないの」

 エドワードは悪気ゼロの表情で、キラキラした眼差しを向けてくるけど、あの場に居なかったエドワードが知っているという事は、全校生徒に尾鰭背鰭が付いて広まっている気がする。
 その前にも、風魔法で訓練場を破壊しているし、破壊願望があるとか思われていたらどうしよう。
 違うの! 私は、使った事がない氷魔法がどんなものか知りたかっただけなのっ!
 ……まぁ、その後に修復魔法を使う前に、先ずは私が出してしまった氷を何とかしないといけないって事で、火魔法の魔道具を使って、危うくボヤ騒ぎを起こすところだったんだけどさ。

「凄いなー! そんなに自由自在に魔法が使えたら、きっと楽しいですよね?」
「それはそうだと思うけど、私はその域にまで達していないから。氷魔法だって、訓練場を壊そうなんて思ってないんだから」

 その後も、エドワードが基礎魔法を使うコツとか、魔法の勉強の仕方とかを聞いてくる。
 だけど、基礎魔法は魔道具を握るだけで私は何もしていないし、魔法の勉強の仕方なんて、ただ本を読んで実践しているだけ。
 教えられる事なんて何一つないのに、エドワードが私の言葉を目を輝かせて待っている。
 こ、これは何とか話を変えないと!

「そ、そうだ! ここの学生寮のご飯って美味しいよね! 私、昨日学生寮の夕食を食べて、ちょっと感動しちゃったんだー」
「ソフィアさんは、食事がお好きなんですね。結構こだわりがあったりするんですか?」
「こだわりはないけど、美味しいものを食べている時って幸せじゃない。嫌な事があっても、美味しいものを食べている間は、完全に忘れちゃうもの」

 そうそう。日本では職場がブラック過ぎてストレスが凄かったので、ランチだけでも良いものを……って考えて、結構いろんなお店に行ったのよね。
 予備校ではなく塾の講師だったので、学生の学校が終わってからが本格的に仕事の始まりで、毎日夜遅くまで働いて、夕食はまともに食べる時間なんて無かった。
 だから、授業と授業の合間のほんの少しの間の休み時間に食べるスイーツだけが、私の癒しだったのよね。

「あー。またチョコとか食べたいなー」
「チョコ……ですか?」
「あっ! 待って! 今のは何でもないの! 忘れて!」

 しまった!
 日本のスイーツの事を思い出して、つい声に出てしまっていた。
 エルフの森では、自然を大事にするから、食事は簡素で、スイーツなんて一切ない。
 唯一の甘味といえばハチミツだったもん。
 そんな世界にチョコレートなんてある訳がないし、それは何かって聞かれたら、説明も出来ない。

「もしかして……ソフィアさんは甘いものが好きなんですか? それなら……今日の放課後、僕の家へ遊びに来ませんか? スイーツ……ありますよ?」
「えぇっ!? ほ、本当!? その……ぐ、具体的にはどんなものが?」
「そうですね。今日、何が出るかは僕もわかりませんが、昨日はシュークリームという、見た目はキャベツに似たパイ生地の中にカスタードクリームが……」
「行くっ! 是非遊びに行かせてっ!」
「はい! ソフィアさんなら、大歓迎です!」

 エルフの村と違って、人間の国には日本みたいなスイーツがあると聞いて、早速今日の放課後にエドワードの家へ行く事にした。