「……何だろう。絶妙に、私が読みたい本が無いのね」

 上級魔法と書かれた本があったので見てみると、中身は父親の書斎にあった中級魔法の本だった。
 しかも、既に習得済みの魔法だし。
 その一方で、魔力コントロールに繋がりそうな、基礎魔法や初級魔法の本を見てみると、魔法の概要的な話ばかりで具体的な内容に欠ける。
 もしかして、わざと私が知りたい本を隠しているのではないだろうか。
 ……いや、勿論そんな事をする訳がないんだけど、そう思ってしまう程に有益な本が無い。
 三か月で魔力コントロールを習得出来るという話なので、それくらいなら……と思ったけど、成人するまでにしっかりとしたスキルを身に着けておかなければならないのにっ!
 という訳で、図書室での自習は諦め、司書の先生が言っていた訓練場へやって来た。

「すみません。ここで魔道具っていうのを借りられると聞いたんですが」
「あぁ、手続きをしてくれれば……そ、ソフィア様っ!? はいっ! 大丈夫ですっ! どれでもお好きな物をお使いくださいっ!」

 いやあの、そんなあからさまに態度を変えなくても良いと思うんだけど。
 如何にも体育会系ですって感じのマッチョな男性教諭に直立不動で畏まられながら、魔道具が格納されているという棚へ。
 厳重に鍵が掛けられていたけど、先生が鍵を全て外し、一つ一つ説明してくれる。

「こちらは水を出す魔道具です。握るだけで水が出て来ますので、魔力制御が出来ない者でも、魔法を使う感覚を知る事が出来るのですが……ソフィア様には不要かと」
「いえいえ。こういうの……むしろ、こういう物を探していたんですよ。魔力のコントロールが出来ない人向けの道具なんですよね?」
「え、えぇ。でも、ソフィア様は魔法が使えますよね?」
「そうですが、何事も基礎練習は大事ですから。えっと、水と風は最近やらかした……もとい、エルフが得意とする魔法でで何度も使っていますから、それ以外は何がありますか? 光とかがあれば嬉しいんですが」
「光は魔法の中でも特殊な位置づけですので……水と風を除くと、あとは火と土と氷ですね」

 火魔法と氷魔法は父親の本にも載っていなかったし、長老も教えてくれなかった。
 エルフは草木を大事にするイメージがあるから、火と氷は不得手というか、あえて習得しようとしないのではないだろうか。
 となると、せっかくなのでこのどちらかを使ってみたいんだけど、火は万が一やらかした時に、シャレにならないので、氷を選ぶ事にした。

「では、氷でお願いします」
「わかりました。それでは、この珠を軽く握ってください。それだけで魔道具の方が利用者の魔力に干渉し、氷を生み出しますので」
「ありがとうございます。では、やってみますね」
「あ、少しお待ちください。……お前たち! ソフィア様が魔道具をお使いになる! 邪魔しないように、全員観客席へ行くんだ! 今すぐっ!」

 えーっと、後から来た私がこの場所を占有するのって気が引けるんですけど。
 とはいえ、先生は生徒たちを戻す気はないみたいだし、生徒たちもエルフである私が何をするのかと興味津々な様子で見ている。
 いやあの、エルフだからって期待されていると思うんだけど、魔道具を使うだけなので、単に氷が出て来るだけよ?
 私が居ると他の生徒の邪魔になりそうなので、早くこの魔道具を使おうと思い、ピンポン玉くらいの大きさで、青色のガラス玉のような魔道具を掌に乗せて訓練場の真ん中へ。
 続いて、教わった通りに魔道具を両手で包み込むと……私を中心して、地面から円を描くように巨大な氷柱が生えてきた!

「あの、先生。これって、基礎魔法ですよね? 少々危険ではないですか?」
「……そ、ソフィア様っ! 魔道具を止めてくださいっ! これ……危なっ! ぜ、全員逃げろっ!」
「えっ!? ちょ……待って! 私はっ!? というか、この魔道具ってどうやって止めるのーっ!?」

 私から見て外側へ向かって、沢山の氷柱が生えていき……うん。訓練場の壁を突き破ったね。
 手で包むのを止めれば魔道具が止まると気付くまで、訓練場の外まで氷柱が生えていき……幸い、みんな無事に逃げられたみたいだけど、再び修復魔法を使うはめになってしまった。