学園長さんがいつもの調子に戻った後、エドワードが目をキラキラと輝かせて話し掛けてくる。

「ソフィアさん! 先程の魔法……是非、僕にも教えていただけないでしょうか」
「え? 教えるのは構わないけど、エルフの魔法というか、漢字……じゃなくて、エルフの昔の文字を覚えないといけないんだけど」
「やります! 頑張ります! ですから、是非!」
「はぁ……」

 物凄くやる気に満ちている感じがするし、やっぱりこの人は魔法好きなのだろう。
 それはそれで良いのだけれど、どういう訳かエドワードが私の傍から離れようとしない。

「あの、エドワード……次はエドワードの番だって、呼ばれているけど」
「あ、そうでしたか。では、ちょっと行ってきますね」

 そう言って、エドワードが小走りで学園長の所へ行き、今日の課題である風魔法を使用する。
 ……って、あれ? 使用するんだよね?
 学園長の前に行ってから、何かぶつぶつ言っているけど、いつ魔法を使うんだろう?
 でも学園長も何も言わないし、何をしているの?
 それから少しして、エドワードが右手を前に突き出す。

「ブリーズ」

 あれ? 風の初級魔法って、「ウインド」だよね?
 長老からも教わっていないし、父親の部屋で見つけた本にも書かれていなかったと思う。
 不思議に思っていると、訓練場に置かれていた旗が少しだけ揺れた。
 一応、風は発生したみたいだけど、どういう魔法なのだろうか。

「ソフィアさん。いかがでしたでしょうか。僕の風魔法は」
「え……えーっと、幾つか教えて欲しいんだけど、最初に学園長の前で何をしていたの?」
「何って、呪文詠唱です。僕の腕では、ソフィアさんや学園長みたいに、無詠唱で魔法を発動させる事なんて出来ないので」
「呪文……詠唱!? ……って何?」
「え? 先程の魔法理論の授業でも説明がありましたけど、自身の魔力を精霊に渡す為の約束の言葉です」

 精霊? 約束の言葉?
 んんん? 何それ? さっきの授業でそんな事、言っていたっけ?
 いやまぁ、私が授業内容が殆ど理解出来なかっただけで、説明があったのかもしれないけど、魔法を使うのに精霊へ魔力を渡すっていうのがわからない。
 エルフの魔法と人間の魔法で、仕組みが違うって事なの?

「……じゃあ、魔法を発動させる時に言った、ブリーズって? 初級魔法はウインドよね?」
「風の初級魔法はブリーズですよ。ウインドは中級魔法です」
「ウインドが中級!? 私は初級魔法だって教わっているんだけど」
「ソフィアさんがエルフだからかと。エルフは人間よりも遥かに魔法の技術に長けていますから」

 えぇぇぇ……エルフと人間の魔法で、等級がズレているなんて知らなかった。
 じゃあ、私も使えないけど、エルフの上級魔法はどういう扱いになるんだろう。
 長老がこの魔法学校まで私を連れてきてくれたレビテーションの魔法は、上級魔法だって本に書いてあった気がする。

「参考までに知っていたら教えて欲しいんだけど、レビテーションっていう魔法の等級は?」
「空を飛ぶ風魔法ですよね? それは超級魔法で、禁呪扱いです」
「超級!? 禁呪!? ど、どうして禁呪だなんて呼ばれているの!?」
「その効力が凄すぎるからですよ。空を飛ぶ事が出来れば、敵国への侵入も容易ですし、何もかもが有利過ぎるからですね。魔族や魔物などの、人類共通の敵を倒す際には良いかもしれませんが、通常時に使うのはちょっと……」

 いや、その通常時に使う事をためらわれる魔法で、登校してきたんですけど。
 もしかして、然るべき人に見つかっていたら、罰せられていたの!?
 ……まぁでも、その然るべき人の代表が学校長な気がするから、まぁいっか。
 それに、長老なんて空を飛ぶどころか、瞬間移動で帰っていったしさ。
 ひとまず、魔力のコントロールについては学校の授業で学ぶとして、そもそもの魔法の勉強や練習は、自主練習しないとダメだという事に気付いてしまった。