両親を説得し、長老が学校へ話を通した数日後。
 学校側の準備期間を経て、ついに入学の日となった。
 学校までは、長老が魔法で連れて行ってくれるそうだ。

「ではソフィア。行こうかの」
「はいっ!」
「レビテーション」

 長老さんが風魔法を使うと、二人の空高くに舞い上がり、大きな森の上へ。
 わぁー。エルフの森ってこんなに広いんだ。
 これ、歩いて森を出るのは無理じゃないかな?

「加速するぞ」

 長老がそう言うと、ピューンと一気に加速して、大きな森を文字通り飛び越える。

「長老さん。この魔法って、私も使えるようになるかなー?」
「うむ。ソフィアなら間違いなく使えるようになるじゃろ。ただ、その……い、今使おうとするのはやめておくのじゃ」

 いやまぁ、魔力がコントロール出来ない状態で、こんな魔法を使えばどうなるかは、容易に想像出来るからね。
 魔法学校でしっかり魔力のコントロール方法を学んでから使うようにしよう。
 それから少しすると、下の方に小さく建物が見え始めた。

「長老さん。あれが、人間の街?」
「うむ。エルフの森から一番近い場所にある人間の街じゃ」
「へぇー!」

 ここから見ると、家が小さく見えるんだけど、一体どれくらいの高さなんだろう。
 そんな事を考えていると、長老が少しずつ高度を下げていく。
 うーん。どこに着地するつもりなのかは分からないけど、結構目立っていそうな気がする。
 大丈夫? 人が空を飛んできた……って、変な噂にならない?
 そんな私の心配を他所に、長老さんが目の前を指さす。

「あそこに大きな建物があるじゃろ? あれが魔法学校じゃ」
「本当だ……大きい! あんなに大きな校舎を作るなんて、凄いんだね」
「そうか? ワシも本気を出せば、あれくらいの建物など、簡単に作れるんじゃぞ?」
「そうなの?」
「う、うむ。よ、余裕じゃ……」

 へぇー。やっぱり魔法って凄いんだ。
 こんなに大きな建物を長老一人で建てられるなら、大工さんとかが居ない世界なのかな?
 いやでも、全員が長老みたいな魔法の達人って訳じゃないから、大工さんが居ないって事はないか。
 いずれにせよ、私も魔法で手に職をつけられるように頑張らないと。
 成人まで、たったの五年。そう考えると、三ヶ月で卒業出来るのは本当にありがたいわね。

「そうじゃ。言い忘れておったが、魔法学校にいる間はワシの事を長老ではなく、お爺ちゃんと呼ぶ事。良いな?」
「え? どうして?」
「どうしてもじゃ」

 よく分からないけど、何か理由がありそうなので、従っておこうかな。
 そんな話をしている内に、いつの間にかかなり高度が下がっていて、魔法学校のバルコニーへ降り立つ。
 すると、建物の中から、慌てた様子の男性が現れた。

「長老様! 本日、お孫さんと来られるとは聞いておりましたが、空からとは聞いておりませんよ」
「はっはっは。いつも転移魔法ばかりでは味気ないかと思ってな。孫にこの辺りの地理も見せたかったのじゃよ」
「さ、左様ですか。えっと、今のお話からすると、そちらのお嬢様がお孫さんでしょうか」
「うむ。ワシの可愛い可愛い、とても大切な孫のソフィアじゃ。くれぐれも宜しく頼むぞ」
「畏まりました。それでは、お嬢様をお預かりさせていただきます」

 そう言って、男性が深々と頭を下げたんだけど……そもそもこの人は誰なんだろう。

「長……お爺ちゃん。この人は?」
「ワシの友人の息子……いや、孫じゃ。この学校の現学園長じゃ」
「えっ!? そ、そうなんですね。えーっと、ソフィアです。これから、お世話になります」

 長老は学園長を友達って感じで話していたけど、あんまりそんな風に見えないかも。
 何となく、お客様扱いされている気がする。
 それとも親しき中にも礼儀ありって事なのかな?

「では、ソフィアよ。ワシは一旦エルフの森へ帰る。何かあったら、すぐに呼ぶのじゃぞ。いつでも助けに来るからな」
「助けを呼ぶような事なんてないと思うけど……わかった。お爺ちゃん、ありがとう」
「ほっほっほ。ではな……テレポート」

 長老さんが来た時とは別の魔法を使い、一瞬で姿を消してしまった。
 ……空から来たのは目立っちゃった気がするし、今の魔法で連れてきて欲しかったな。
 そんな事を考えていると、

「では、ソフィア様。こちらへどうぞ。皆を紹介いたします」
「あ、はい。わかりました」

 担任の先生とかを紹介してくれるのかな?
 そんな事を考えながら、学園長さんについて行く事にした。